中部弁・フエ方言

特になまりがきついと言われる中部方言は、
いわば北部・南部方言と比べてより古い形を保持している、
と言い換えることができます。
北部・南部方言が近世の戦乱の影響を強く受けたという点で、
発音は違ってもつづりなどの共通点が比較的多いのに対し、
中部方言は上に述べたとおり、
同じ意味の言葉でもつづり自体が異なる場合が多々あります。
これはベトナム最期の王朝である阮朝が、
中部の都市フエを中心に所在したことが強く関連していて、
北部・南部とは語彙的な相違が根本から存在するためです。
さらに、
同じ中部どうしでも語彙の違いがあり、
ここで全てをあげることは叶いませんが、
その古都フエの方言をいくつかご紹介します。

音声:グエン・ティ・タイン・フオン(Nguyễn Thị Thanh Hương)さん

「どこ」 北部弁では đâu

rứa 「文末詞のひとつ」 北部弁では vậy

ni 「この」 北部弁では này

răng 「なぜ」 北部弁では tại sao

思いっきり違いますね。
これらをいくつか組み合わせて文を作ってみると、

北部弁 Anh đi đâu vậy ? アイン ディー ダウ ヴァイ

中部弁 Anh đi mô rứa ? アン ディー モー ルア

Anh は人称代詞、đi は「行く」という意味の動詞で、
「あなたはどこに行きますか」という意味ですが、
もはや共通する発音はディーしかありません。
(ちなみに南部弁ではアン ディー ダウ ヤイ)

フエの他に、
建国の父ホー・チ・ミンの故郷ゲアン省も、
語彙、声調ともに北部弁とは大きく異なっており、
「中部弁はもはやひとつの外国語だよ」
という人も少なくないほどです。

ベトナムへの留学を考えるなら、
標準語と呼ばれる北部弁を学べるハノイか、
話者人口の多い南部弁を学べるホーチミンか、
どちらかを選択するのが無難かもしれません。