おかゆと負債の共通点
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幸か不幸かふむ吉さん、
コワモテの借金とりを目の前にして、
金を借りた上に、
切羽詰ってことわざの力までをも借りようとしたところ、
どっこい見た目からは想像もつかないくらい、
審美的で繊細な心をもった借金とりは、
先人がつむいだ美しい格言にふれて、
安直なトラを許してあげたようですね。
それにしてもふむ吉さん、
いくら日越交流のためだとはいえ、
危ない橋を渡ってまで志を果たそうとするなんて!
しかも、
そのために一端の男が地面に額をこすりつけるなんて!
めずらしく、
彼の見上げた根性を見た気がします。
それでは、
今回のフレーズを見てみましょう!
[おかゆ] [熱い] [すする] [周り], [借金] [支払う] [徐々に]
cháo は「おかゆ」という意味で、
日本でのそれがほとんど療養食であるのに対し、
ベトナムの食文化では通常の食事として、とても登場頻度の高い献立です。
cháo nóng で「熱いおかゆ」という意味です。
húp は「すする」という意味ですが、
特に「器に口をつけ、少しずつ吸うようにすする」というニュアンスです。
húp quanh で、「周りをすする」という意味になります。
借金を、「徐々に」 = dần 「支払う」 = trả のですね。
(trả は giả と言う場合もあります)
全体を直訳してみましょう。
熱いおかゆは周りから少しずつすすり、
借金は徐々に返済する
これが転じて、
次のような意味になります。
困難で複雑な事象に直面したときでも、
または自分に負い目があって返済できていないときでも、
焦らず冷静にできる限りの努力でもって、
一歩ずつ解決へ歩を進めていこう
終始冷静だったマロンちゃんは、
もしかしたらこの意味を知っていたのかもしれませんね。
人生を歩む中で直面する困難な障壁を前にしても、
冷静にコツコツとやるべきことをやろう
人間の一生は多くの人にとって、壁のオンパレードでしょう。
それでも一歩ずつ、
着実に前へ進んでいこうという意味のこのフレーズは、
ベトナム人もとてもよく使う頻出表現です。
おもしろいのは、
たとえ話のはずなのに、
引用される場面の多くが、
実際のお金に関わるものだということでしょう。
私の知人の場合も、
商売のために借りたお金の返済にあたってはもちろん、
親戚間での金の貸し借りにおいても、
よくこのフレーズを口にして、
言い訳と言えばそうなのですが、自身を励ましていました。
引用の際の注意点としては、
「自分に負い目がある場合」であるという点です。
単純に何らかの目標があって、それに向かってコツコツと努力する、
というような場面ではあまり用いられません。
また、
「負い目はあるけれど、自分も辛い中がんばっているんだ」
というような、
いわば心理的安定剤のような言葉でもあります。
完璧主義が美徳とされる日本と、
何事も、六割できていれば明日につながるという、
「六割原則」のこころをしばしば感じられるベトナム。
双方ともが人の世をを生き抜く知恵であり、
今回のフレーズはそんなベトナムの社会がつむいだ、
特徴的な言い回しであるといえるのかもしれません。
願わくば、
両国籍を持つハイブリッドなトラが、
双方の要素を都合よくやりくりするのではなく、
ジャングルの王としての自覚と信念をもって、
現代の人の世を生き抜いてほしいところです。
・・・トラですけど。
(おわり)
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