豚の食抜きは厳禁

なぜふむ吉がブタを見学に行ったのかは定かではありませんが、
腹を空かせたブタたちに、
ともすれば天敵であるはずのふくよかなトラは、
あえなくリンチにあってしまったようです。

その光景を見ていた、
養豚場の主らしき人物はふむ吉に諭します。

豚は一食くわねえと、
人が半年くわないくらい腹をへらしちまうのさ

これは養豚業における格言のようなもので、
ベトナム語では、

Lợn bữa bằng nửa năm.
[豚] [腹減る] [1] [食] [等しい] [人] [腹減る] [半] [年]

と言います。

もしブタを腹を空かせたままほうっておくと、
彼らは小屋を破壊するほど暴れ狂乱し、どこかへ行ってしまうだろう。
そうでなくてもやせ細り、
成長も遅れまるで売り物にならなくなるだろう。

というまさしく養豚業における教えであり、
ベトナムのことわざ辞典にもそれ以上の意味合いは載っていません。

しかし、
捉えようによっては、

もしも女の子を満足させられずにほうっておくと、
彼女らは孤独に心を痛め、どこかへ行ってしまうだろう。
そうでなくても愛に飢え、
もはや恋愛関係は立ち行かなくなるだろう。

というような、
すこしひとりよがりな恋愛訓に思えてしまうのは私だけでしょうか。

「あげるもの」を、
「物品」と捉えるか「愛」と捉えるかによっては、
言葉のありがたさに天と地の差が出てしまうのも、
なんだかおもしろいですね。

ちなみにこのことわざには似た表現があり、

nửa năm

の部分を

năm
[人] [腹減る] [丸々][年]

として、

ブタが一食抜くと人が丸一年食べないほど腹が減る

という場合もあります。

また、
ブタの腹減り性のすごさを凌ぐ存在もいて、

ブタが一年食べなくても、
蚕(カイコ)が一食抜いた時の空腹には叶わない

という言葉もあるのです。

ベトナム語では、

Lợn năm bằng tằm bữa
[豚] [腹減る] [丸々] [年] [否定] [同じ] [蚕] [腹減る] [1] [食]

と言います。

蚕って、そんなに必死なの!?

と疑いたくなりますが、
いずれの言葉にしても、
一般大衆にとっての意味のありがたみの低さの割に、
ことわざ辞典にしっかり載っているところを見ると、
つい最近まで、
ベトナムの主要産業は農業だったからかな~とか、
ことわざが好きなベトナム人は、
身近でない言葉も大事に扱ってきたのかな~とか、
いろんな想像がふくらんでおもしろいですね。

それに、
上述の恋愛訓ではありませんが、
言葉の意味はその人の捉えようで姿を七変化させるものであり、
勝手に意味をふくらませるのもおもしろいですね。

今回の言葉は、
ベトナム人なら誰でも決まって使うというような言葉ではありませんが、
皆さんもベトナムの農村を訪れた際には、
ぜひ使ってみるとウケるかもしれませんね。
(そんなにあるかよ、そんな機会!)

そして第一回に続いて、
ふむ吉の扱いがひどかったですね~
そんな時もあるさ、
ビバ!ふむ吉!

出典: NXB VĂN HÓA THÔNG TIN "Từ điển THÀNH NGỮ TỤC NGỮ VIỆT NAM", NXB VĂN HỌC "Từ điển THÀNH NGỮ TỤC NGỮ VIỆT NAM"

Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です