ブタの餌付けはちらリズム

ことわざの意味とは正反対に、
豚に腹を空かせられるふむ吉。

その扱いのあまりの粗雑さに、
図らずも彼に同情の念が湧いてきます。
が、
気にせずに今回のことわざを見てみましょう。

Cám treo nhịn .
[米ぬか] [ぶらさげる] [接続詞] [豚] [耐える] [空腹]

これはベトナム南部のことわざで、
直訳すると

米ぬかをぶら下げて豚に空腹を耐えさせる

という意味になります。

Cám とは米ぬかで作るブタのエサで、
ブタの大好物。
好物をちらつかせ、
それでも与えることはせずに、
ひたすら腹を空かせてやれ!
ということわざです。
ことわざにしては教訓が弱い気がするし、
なんというか、ちょっとブタが可哀そうです。

しかし、
そこには私たち人間の心理をみごとにとらえた、
他でもない、
ちらリズムの精神が宿っているのです。

なんでもすぐに与えるのではなく、
手の届かないところに見せておいて、じらす。
すべてを何のかせもなく与えるのではなく、
適度な制約を設けて、うずうずさせる。
すると、
望むもののありがたみは倍増し、
何度でも見たくなって、
欲しくてたまらなくなるのです。

身近なところで言えば、
ベトナムの伝統衣装であるアオザイ。
女学生たちの制服になっているところもあって、
真っ白な布地から、
透けていそうな透けていなさそうな・・・
おっと!

ついついわたしのチープな日常を、
皆さんの前にさらけ出しそうになりました。
と、とにかく!
わたしたち人間は、
じらされたり隠されたりすることで、
対象の価値をより大きく感じる節があるようですね。

ハノイにいるわたしのベトナム人の知人で、
学生時代にわたしが彼の家にホームステイしていた時の話です。
彼は妻子持ちで、小学生の娘さんがふたりいました。
彼の家には全体で1年間弱滞在していたのですが、
その中ほど、
わたしは旅行のため2週間ほど家を空けました。
旅行を終えて彼の家にもどりしばらくすると、
奥さんの妊娠が発覚!
彼は嬉しそうに、
今度こそ男の子だと話してくれたついでに、
こう言ったのです。

おまえがうちにいる間、
なかなかごぶさたでよう。
ひさしぶりでハッスルしすぎて、
できるべくしてできちまったぜ!
まさしく米ぬかをぶらさげられて腹ペコだったからよ!

わたしは申し訳ないと思うより前に、
ことわざを引用したのにも関わらずあからさまな表現に苦笑いでしたが、
こういう話題をためらいもなく話すベトナム人は、
かなり珍しいといえます。
それほど、
じらされた効果が大きく、
成果があったこともあってうれしかったのかもしれません。

今となっては、
わたしも妻子持ちになりましたが、
二人目を考えるときにはまず、
留学生を受け入れようと心に決めています。

ちなみに、
じらされたからなのかどうかは判然としませんが、
ハノイの彼の第三子は、
とっても可愛らしい女の子でした。

(おわり)

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