発音のキホン
( Let's study Vietnamese!! )
音節編
音節とは、ひとつの音のかたまりのことを言います。
日本語で言うと「あ」や「う」、
「は」や「ま」など、
ひらがな一文字で表されますね。
ベトナム語では、
母音と子音、
そして声調記号が組み合わさって、
ひとつの音節がつくられます。
その音節ひとつひとつが単独の意味を持っているのが特徴で、
それらを並べることで文がつくられます。
まずはひとつの音節について、例を見てみましょう。
EX). hùm
ご存知ふむ吉の「ふむ」は、
ベトナム語では上のように書きます。
これもひとつの音節であり、
単独で「虎」という意味を持っています。
これを文字の要素ごとに分解すると、
次の表のように分けられます。
声調記号 | ||
̀ | ||
頭子音 | 母音 | 末子音 |
h | u | m |
なにやらいろんな用語が出てきましたが、
母音はみなさんご存知ですよね?
頭子音とは、音節の最初にくる子音のことで、
末子音とは、音節の最後にくる子音を言います。
そして声調記号が母音の上につけられています。
これはベトナム語のルールで、
声調記号はかならず、母音の上につけられます。
それでは次の例はどうでしょう。
EX). ăn hùm
ăn は「食べる」という意味で、
文字通り「虎を食べる」という文です。
例がおかしいんだふむ!
ふむ吉からクレームが来ているようですが、
気にせず早速分解してみましょう。
声調記号 | ||
頭子音 | 母音 | 末子音 |
ă | n |
あれ、頭子音が見当たりませんね。
でも心配いりません。
ベトナム語の音節には必ずしも頭子音がつくわけではなく、
そのまま「アン」と発音します。
少し詳しく説明すると、
実は ăn の頭には目に見えない声門閉鎖音という音があります。
声門閉鎖音とは、
日本語で小さい「っ」を言おうとすると、
のどの奥が閉まるときの、
聞こえないけれども確かに存在する音のことです。
頭子音のない音節のを発音するときは必ず、
この声門閉鎖音からはじまるのですが、
それらを発音しようとすると自然にのどが閉まるので、
特に意識する必要はありません。
さて、ăn の分解に戻りましょう。
母音、頭子音、末子音ときて、
声調記号はどうでしょうか。
そう、ありません。
声調記号がついていないのです。
え、じゃあ声調がないの?楽チン~
と思われるかもしれませんが、
これは声調記号がないだけで、
声調記号のない声調
というひとつの声調があるのです。
それでは最後の例を見てみましょう。
EX). giận hùm
giận は怒るという意味で、
giận hùm で「虎に怒る」という意味になります。
マンガでフム吉もよく怒られていますね。
それでは早速分解してみましょう。
声調記号 | ||
. | ||
頭子音 | 母音 | 末子音 |
gi | â | n |
頭子音、母音、末子音、そして声調記号。
うん、もう大丈夫!
でも…あれ!?
そうなんです。
頭子音の箇所に、g と i のふたつの文字が連なっていますね。
しかしこれは、間違いではありません。
ベトナム語の頭子音には2文字の場合も、
さらには3文字の場合もあるのです。
Nghiêm ! Hùm-kichi !
は「ふむ吉、気をつけ!」という、
ふむ吉に喝をいれることのできる表現なのですが、
この Nghiêm は軍の号令の折などに使われる言葉で、
ngh の3文字が頭子音です。
そして、それに続くiê は二重母音といって…
おっと!
これ以上は長くなるので次にしておきましょう。
それにこれ以上やると、 ふむ吉もそっぽを向いてしまいかねません。
ともあれ、
こんなに気安く絡まれるということは、
ふむ吉のオープンな人柄、いえ虎柄を、
裏付ける証拠でもあると言えますよね。
がんばれ、ふむ吉!
母音編
ベトナム語には、
11種類の母音(表記上は12種)、
6種類の二重母音(表記上は7種)、
さらに2種類の半母音と呼ばれる母音があります。
え、そんなにあるの!?
と少し身構えてしまうかもしれませんが、
あくまで分類上での数であり、
実際は11種類を抑えてしまえば、
声に出して練習するうちに覚えてしまうでしょう。
では、次の図を見てください。
この図は、
ベトナム語の母音を発音した際の、
口の形と舌の位置を表したものです。
上に行くほど口の形は「あ」から徐々に狭くなり、
右に行くほど舌の位置が後方になります。
また、
はそれがつかない同じ文字の母音よりも狭く、
はそれがつかない同じ文字の母音よりも短く、
は唇を丸くすぼめないことを表す記号です。
それでは実際に、
母音、二重母音、半母音について詳しくみていきましょう。
ぜひ声に出して発音してみてください。
1. 母音
ア →3種類
a
口を大きく開けて長めに。日本語のアに近い。
ă
a と同じ音だが、短く。
â
アとオの中間で、短く。
イ →1種類
i と y
どちらも同じ音。日本語のイよりも唇を横に広く。
ウ →2種類
u
唇をキュッと狭く丸めてやや長めに。
ư
イの口の形でウ。唇を丸めずに、やや長めに。
エ →2種類
e
口を大きく開いてエーとやや長めに。
ê
イと上の e の間で、イに近い。日本語のエより唇をやや狭く。
オ →3種類
o
口を大きく開いて、やや長めに。
ô
唇を丸めてやや長めに。「も~」文句を言う時のような形。
ơ
â と同じでアとオの間だが、â より長く。
※ a に u, y, ch, nh が続く場合、a は ă の音になるので注意しましょう。
2.二重母音
ia
唇を左右に引いた長めのイのあとにあいまいなア。
iê
唇を左右に引いたイのあとにあいまいなア。
音節の頭に置く場合は yê とつづる。
ua と uô
唇を丸めた強く長めのウのあとにあいまいなア。
後ろに末子音が続く場合は uô とつづる。
ưa と ươ
唇を左右に引いたウのあとにあいまいなア。
後ろに末子音が続く場合は ươ とつづる。
★ 二重母音は、頭の音を強く長く発音することがポイントです。
3.半母音
頭子音と母音の間に置かれる o と u を半母音といいます。
唇をやや丸めて軽く突き出し、短く発音します。
例. hoa(花)、quê(田舎)など
hoa
quê
以上が、ベトナム語の母音です。
え?
退屈すぎてふむ吉に会いたくなった?
私も会いたいですよ~でも!
発音ができてこそのベトナム語ですから、
将来ふむ吉とベトナム語トークができるよう、
がんばって繰り返し練習してくださいね!
子音編
音節のところでも出てきましたが、
子音には頭子音と末子音のふたつがあります。
ざっと見ると非常にめんどくさそうですが、
それぞれの説明に適当に目を通したら、
【おまけ】に特訓を用意していますので、
とにかく繰り返し声に出して練習してみてくださいネ!
1.頭子音
唇を固く閉じてから一気に破裂させるような音。
続く母音が i, e, ê, ia, iê の場合はk を使う。
また、q は必ず u を伴う。
例えば gia はジアーではなくザー。
また、di および ri はジではなくズィ。
r について、外来語の場合は下記のように「ラ」行になることがある。
pơ-rô-tê-in | プロテイン |
続く母音が i, e, ê, ia, iê の場合は gh を使う。
タンを出すのがうまい人はこの音も得意かも!?
英語のエルと同じ音で、日本語のラ行とは異なる。
「山河(さんが)」という時のンガと同じ音。
主に英語やフランス語からの外来語に使われる。
上の前歯で下唇に軽く触れ、はじくようにして出す音。
si や xi はシーではなくスィという音。
口に手をやると息が強くかかるのが分かる音。
2.末子音
① 実際には発音されない音4種
「つっぱり」という時の「ぱ」を言う直前で止めた口の形。
「もったり」という時の「た」を言う直前で止めた口の形。
「まつぼっくり」という時の「く」を言う直前で止めた口の形。
「これっきり」という時の「き」を言う直前で止めた口の形。
これら -p, -t, -c, -ch の四つには次の共通した特徴があります。
・音を出す口の形を作って、そのまま止めて声は出さない。
・sắc と nặng の2つの声調しかとらない。
なんだかもどかしい特徴ですね。
次もなんだかカゲキな項目ですが、
大切な末子音です。
② 唇やら舌やらを、とにかく閉める4種
「短髪(たんぱつ)」という時の「ぱつ」を言わない口の形。
「アンテナ」という時の「ン」の口の形。
「ハンカチ」という時の「ン」の口の形。
「元日(がんじつ)」という時の「ん」の口の形。
これら4つは全て「ん」ですが、
口の形や舌の位置、
そして聞こえかたがまるで違うので、
ご自分の口でしっかり確認してみましょう。
次はヘンタイです。 (え!?)
③ 母音なのに末子音になるヘンタイ4種
このように、
-i, -y, -o, -u は a に続くとき、
それぞれ単体では母音の文字なのに、
ふたつになった途端に末子音に姿を変えるのです。
近ごろ妻との関係が冷え気味の私にとっては、
実にたのもしいボイン、いや、母音なのです。
(すみません)
子音は以上です!
は~、やっぱり発音の勉強って、退屈ですよね。。
はっ!
私がこんなことを言ってはいけませんね!
皆さんもそんなこと、
思っていないですよね~
でも、たとえそう思っていても大丈夫。
そんな皆さんのために、
ふむ吉からちょっとしたプレゼントです。
上に出てきた末子音の中の、
実際には発音されない音4種 と、
唇やら舌やらを、とにかく閉める4種 にある、
なんだかヘンテコな例である
「つっぱり」「もったり」「まつぼっくり」「これっきり」
「短髪」「アンテナ」「ハンカチ」「元日」
を、つなげて解釈してみましょう!
「つっぱり」が得意なお相撲さんさながらの体格で、
「もったり」したお腹だけれども、
「まつぼっくり」のようなシルエットがかわゆい、
「これっきり」にはしたくない魅力的なトラ、それはふむ吉!
「短髪」すぎるほどショートヘアーだけど、
「アンテナ」はしっかりベトナムへ向いてるの!
まるで幸せの黄色い「ハンカチ」のようにはためく
ベトナムの国旗が僕らを呼んでいる!
嗚呼、ベトナム!
「元日」でも君のことを思わない時はないよ!
という、
ふむ吉からのちょっとあつかましい、
ベトナム愛に溢れた熱いメッセージです!
皆さん、
少しは疲れがとれましたか?
(とれるかよ!)
引き続き、
発音の勉強をがんばりましょう!
声調編
さて、
いよいよベトナム語最大の特徴である、
声調について学んでいきましょう。
ベトナム語にはまるで音楽のような音の高低があり、
その声調の数は6つを数えます。
前述したとおり、
声調が織りなす音の高低変化やリズム感をマスターすることは、
ベトナム人に通じるベトナム語を目指すにあたり、
とても重要な要素です。
と、
仰々しいことを言っていますが、
慣れてしまえば意外とカンタンだなと思えるものなので、
気負いする必要はありません。
まずは分かりやすいように、
視覚的にその姿を見てみましょう。
縦軸は音の高低、
横軸は音の長さを示しています。
例としてma という文字列にそれぞれの声調記号をつけた、
ma、mà、mả、mã、má、mạ を見てみましょう。
もちろん、
声調が違うので、
それぞれ異なる意味を持っています。
ma | 聴く | 声調記号 | 声調の名前 |
なし | thanh ngang | ||
少し高めの、日本語の「マー」を、まっすぐ平らに発音します。 上がりも下がりもせず、まっすぐな音です。 ngang は「水平の、横になった」など、ma は「お化け、葬式」などの意味です。 |
mà | 聴く | 声調記号 | 声調の名前 |
thanh huyền | |||
日本語の「マー」を、かなり低めの声で始め、なだらかに下げる音です。 「坊主(ボーズ)」の東京弁発音の「ボー」のような感じです。 huyền は声調記号を指すほかに「琴、黒い」など、mà は「巣穴、だます」のほか様々な意味の文頭詞や語気詞でもあります。 |
mả | 聴く | 声調記号 | 声調の名前 |
thanh hỏi | |||
ゆっくりと低く下げ、再度もとの高さに上昇します。 これはもう、とりあえず聴いてみてください。 hỏi は声調記号を指すほかに「尋ねる、頼む」など、mả は「墓地、巧みな」などの意味があります。 |
má | 聴く | 声調記号 | 声調の名前 |
thanh sắc | |||
日本語の「マー」を、少し低めの声で始め、鋭く上昇させます。 ケンカをふっかけられた時の「あ~!?」という脅し文句に似ているかも。 sắc は「鋭い、色」など、má は「ほっぺた、母、苗」などの意味があります。 |
mã | 聴く | 声調記号 | 声調の名前 |
thanh ngã | |||
少し高めから始め、やや上昇したら喉を閉じて音を切り、直後にさらに上昇しながら発音します。これもやはり、聴いてみてください。 ngã は「倒れる、交差点」など、mã は「馬、安物、ヤード」などの意味があります。 |
mạ | 聴く | 声調記号 | 声調の名前 |
thanh nặng | |||
やや低めから始めすぐに喉を緊張させ、声をつぶすように発音します。 まさにつぶれたような音です。 nặng は「重い、厳しい」など、mạ は「稲の苗、メッキ」などの意味があります。 |
以上の6つが、 ベトナム語の声調です。
そして、
これまで見てきた音節、母音、子音とともに、
ベトナム語の「音」を構成する必要不可欠な要素です。
こうしてみてみると、
なんだかややこしそうな雰囲気ですが、
「習うより慣れろ」、
音を何度も聞いて、
マネして何度も発音をしているうちに、
知らぬ間に身についていくでしょう。
そしてチャンスがあるなら、
ネイティブの方に直接教わるか、
ぜひベトナムへ行って、
生のベトナム語を体で感じてみてください。
ベトナム語よりも、
ベトナム料理の美味しさに魅せられて、
ふむ吉のように幸せ太りをするのも一興かもしれませんネ。
方言
南北に長いベトナムでは、
北部、中部、南部において、
発音の響きやリズムがかなり違います。
それどころか、
同じ北部でもハノイとその周辺では、
同じ意味でもつづり自体が違うことがありますし、
これは中部、南部ともに共通しています。
さらに、
各地域の人々は、
それぞれの都市の言葉を共通語と考え、
故郷の言葉を大切にする傾向が非常に強く、
例えば南部出身の人が中部に移住した場合、
同じベトナム人でも中部人と南部人で、
全く話が通じないということもあるほどです。
日本では上京すると、
なんだか自然に標準語の語彙やイントネーションになり、
仮に地方出身者と東京人でも、
コミュニケーションに困るということは、
少ないのではないでしょうか。
ここでは、
そんなベトナム語の広大な方言の世界に、
少しだけ触れてみることにましょう。
ベトナム語の方言は、上記の各ページにあるほかにも、
人々が集い暮らしている土地の数だけ、まだまだ沢山あります。
隣り合う省(省は日本の県にあたる)どうしであっても、
さまざまな違いがあります。
さらに話を広げるならば、
ベトナムは54の民族を抱える多民族国家であり、
少数民族である彼らはマイノリティーながらも、
ベトナム語と独自の民族語の双方を操ります。
私たち外国人にとって、
それらの全てをマスターすることは至難の業ですが、
ベトナムを旅行するときに、
美味しいご当地ベトナム料理巡りとともに、
ご当地ことばを味わうのも楽しいものです。
おまけ
おまけとして、
これまで学んだ発音の特訓を用意しました。
声調、母音、頭子音、末子音に分けていますが、
総合的に練習できるように、
相互にそれぞれの要素を織り交ぜています。
最初の内は、
注意することが多くてなかなか進まないかもしれませんが、
慣れてくるにつれてポイントが掴めるようになります。
ぜひ実際に聴いて声に出して、何度も練習してみましょう。
また、重要な語彙ばかりですので、
ついでに覚えてしまいましょう!
※ 北部弁は「北」、南部弁は「南」と付しています。
※ 「北」および「南」を付さないものは北部弁です。
※ 日本語の訳語は代表的な意味です。