ベトナムという名前

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はじめまして、ふむにちわ。
突然ですが、あなたの名前はなんですか?

国にも名前があります。
しかもその名前には、歴史や地理やことばのクセが、けっこう詰まっています。

ふむベトが向き合っている国の名は、ベトナムです。

短い。
言いやすい。
でも、知れば知るほど、なかなか奥が深い名前なのです。

目次

正式名称は、けっこう長い

ベトナムの正式名称は、ベトナム社会主義共和国です。

ふだんは「ベトナム」と短く呼びますが、
正式名称には、この国の政治体制まで含まれています。

つまり、単なる地名としての「ベトナム」ではなく、
国家として名乗るときの名前が、
ベトナム社会主義共和国なのです。

国名を見るだけでも、
その国が自分たちをどう位置づけているのか、
少しだけ見えてきます。

漢字で書くと「越南」

ベトナムは、漢字で書くと越南です。

「越」の「南」。
つまり、越の南。

……そのままじゃないか!
と言いたくなるくらい、字面としてはわかりやすいですね。

ただし、この「越南」という名前を得るまでには、
とても長い歴史的な経緯があります。

ごく簡単に言うならば、
かつて中国にあった「越」という地域・文化圏の南方に位置していたことから、
「越」の「南」方で、越南と呼ばれるようになりました。

もちろん、実際にはそんなに単純な話ではありません。
国名には、地理だけでなく、王朝、外交、中国との関係、独立の意識、
そして「自分たちは何者なのか」という問いが絡んできます。

名前ひとつに、歴史がみっちり詰まっている。

そのあたりをもう少し深く知りたい方は、ベトナムの歴史をのぞいてみてください。

英語では Socialist Republic of Vietnam

英語名は、Socialist Republic of Vietnam です。

略して Vietnam
または、資料などでは SRV と書かれることもあります。

SRV。
なんだか急に、国名というより型番っぽいですね。

SRV-01。
SRV-02。
ベトナム社会主義共和国、発進します。

……などと遊んでいると話が進まないので、
本題のベトナム語名にいきましょう。

ベトナム語の正式名称

ベトナム語での正式名称は、
Cộng Hoà Xã Hội Chủ Nghĩa Việt Nam
です。

長い。
そして声調記号が多い。
初見では、どこで息を吸えばいいのかわからない。

でも、この長い名前、よく見るとかなり面白いのです。

それぞれを漢字に当てると、
Cộng Hoà は「共和」、
Xã Hội Chủ Nghĩa は「社会主義」、
Việt Nam は「越南」です。

つまり、ベトナム語の正式名称は、漢字に直すと、

共和社会主義越南

となります。

日本語の語順に慣れていると、
「ん? 社会主義共和国ベトナムじゃないの?」
と思うかもしれません。

その違和感、だいじです。
その違和感こそ、ベトナム語の入口です。

ベトナム語は、うしろから説明する

この「共和社会主義越南」という並びから、
ベトナム語について大切なことがひとつ見えてきます。

それは、修飾はうしろからなされるということです。

日本語では、
「赤い花」
「大きい家」
「社会主義共和国」
のように、説明する言葉が前に来ます。

ところがベトナム語では、
説明される言葉が先に来て、
説明する言葉が後ろに続くことが多いのです。

たとえば、
Cộng Hoà が「共和国」。
そこに Xã Hội Chủ Nghĩa が続いて「社会主義共和国」となり、
最後に Việt Nam が置かれて、
「ベトナムの社会主義共和国」という形になります。

日本語では自然な語順に並べ替えて、
ベトナム社会主義共和国 と呼んでいるわけです。

ところで、後ろから修飾するなら、
「社会主義」は「主義社会」じゃないの?
と思った方。

スルドイ!

「社会主義」は、外から入ってきた既存の概念を表す語なので、
もとの漢語的な並びがそのまま使われています。

つまり、ベトナム語はうしろから説明することが多い。
でも、外来概念や漢語由来のまとまった語では、
そのままの並びで残るものもある、ということになります。

いきなり例外。
語学あるあるですね。

音で聞くと、日本語と似ている?

さて、もうひとつ面白いのが読み方です。
Cộng Hoà Xã Hội Chủ Nghĩa Việt Nam
これは、カタカナで無理やり書くなら、
コンホア・サーホイ・チューギア・ヴィェッナム
のようになります。

もちろん、ベトナム語には声調があります。
音の上がり下がりが意味を分ける、とても大切な要素です。

なので、カタカナで「コンホア」と書いたところで、
ベトナム語の本当の音を表せているわけではありません。

でも、ここではいったん、細かいことは横に置いて、
日本語の音と並べてみましょう。

コンホア・サーホイ・チューギア・ヴィェッナム
キョウワ・シャカイ・シュギ・ベトナム

なんとなく・・・似てますよね!

ベトナム語には、漢字起源の語彙が非常に多くあります。
日本語の音読みと、ベトナム語の漢越語の読みは、
どちらも古い中国語の音に由来する部分があるため、
思わぬところで似た音に出会います。

たとえば、
政治 = チンチ
社会 = サーホイ
文化 = ヴァンホア
歴史 = リックスー
経済 = キンテー
国家 = クオックザー
民族 = ザントック
こういう少しかしこまった語彙ほど、
日本語とベトナム語のあいだに、
「おや?」という響きの近さが見えることがあります。

「え、あなた日本語にもいましたよね?」
みたいな顔をした単語が、たまにいるのです。

東南アジアで、でも漢字文化圏

ベトナムは東南アジアの国です。

気候も、食文化も、街のにおいも、バイクの量も、
いかにも東南アジアです。

しかし、ことばや歴史をたどっていくと、
ベトナムは漢字文化圏の一員でもあります。

現在のベトナムでは、日常的に漢字を使うことはありません。
文字はアルファベットをもとにしたクオックグーを用います。

それでも、言葉の奥には漢字の面影がたくさん残っています。

地名にも、人名にも、歴史用語にも、政治用語にも、
漢字で考えると急に意味が見えてくる言葉があります。

ベトナム語を学ぶ日本人にとって、これは大きなヒントです。

もちろん、漢字を知っていればベトナム語が簡単になる、
などという都合のいい話ではありません。

発音は手ごわい。
声調は容赦ない。
聞き取りは、慣れるまでは霧の中です。

でも、語彙の意味をつかむとき、
日本語の漢字知識が小さな足場になってくれることがあります。

まったく知らない国のようで、
どこかでつながっている。
それが、ベトナム語のおもしろさのひとつです。

「ベトナム」という名前が教えてくれること

ベトナム。
越南。
Việt Nam。

同じ国の名前なのに、
カタカナで見たとき、漢字で見たとき、ベトナム語で見たとき、
それぞれ違う顔をしています。

カタカナの「ベトナム」は、私たちにとって一番なじみ深い入口です。

漢字の「越南」は、歴史と地理を思わせます。

ベトナム語の Việt Nam は、
その国の人々が自分たちの国を呼ぶ声に近づかせてくれます。

名前を知るというのは、
相手を知るための、いちばんはじめの礼儀なのかもしれません。

遠いようで近いような、ベトナム。
似ていないようで似ているような、ベトナム。
東南アジアであり、漢字文化圏でもあるベトナム。

その不思議な距離感を、
国の名前ひとつからも、少しだけ感じることができます。

まずは、名前から。

ふむベトが向き合う国、
その名は、ベトナムです。

(おわり)

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