ふむにちわ!
ヌックマム(nước mắm) は、魚と塩を発酵・熟成させて作る、ベトナムを代表する魚醤です。
商品のラベルを見ると、30°N、40°N、あるいは「40 độ đạm」といった数字が書かれていることがあります。
これは、アルコール度数や塩分濃度を表す数字ではありません。
ベトナム語で độ đạm(ド・ダム) と呼ばれる、ヌックマム1L中の総窒素量を基準にした指標です。
この数字の意味を先に言ってしまうと、40°Nは、総窒素がおよそ40g/Lであることを示す目安です。
30°Nより40°Nの方が総窒素濃度は高い。
ただし、数字が高ければ必ずおいしい、必ず高品質、必ず長期熟成という意味ではありません。
この記事では、độ đạm と総窒素の意味、なぜ窒素を測るのか、アミノ酸態窒素・アンモニア態窒素との違い、旧国家標準の「30°N=特別級」、50°N・60°N・70°Nの考え方まで順に解説します。
ヌックマム全体についてまず俯瞰したい場合は、以下の記事がおすすめです↓
30°N・40°Nは何を表す?
40°N ≒ 総窒素 40g/L
ヌックマム1L中に、窒素としておよそ40g含まれるという目安
商品などで使われる 30°N・40°N は、一般に độ đạm の数値を示す表現です。
一方、ベトナム国家標準 TCVN 5107:2018 が化学指標として規定しているのは、総窒素量をg/Lで表した値です。「°N」は商品表示などで見られる表現、g/Lは規格で使われる単位、と区別すると分かりやすいでしょう。
40°Nは「たんぱく質が40g/L」ではない
40g/Lというのは、たんぱく質やアミノ酸そのものの重さではなく、液体中に含まれる窒素(N)の重さです。塩分が40%という意味でもありません。

出典・参考:Viện Tiêu chuẩn Chất lượng Việt Nam(VSQI)「TCVN 5107:2018 Nước mắm」/TCVN 5107:2018 本文(総窒素量の単位・化学指標)
Độ đạm とは?|言葉と測定値は分けて考える
Độ は「度合い・程度」、đạm は食品や栄養の文脈で、たんぱく質や窒素成分と関係して使われる言葉です。たとえば chất đạm は、一般に「たんぱく質」を指します。
そのため độ đạm を直感的に「たんぱく質の度合い」と理解することはできます。しかし、ヌックマムの分析で直接測る中心的な数値は、たんぱく質そのものの重量ではなく総窒素量です。
総窒素量を使えば、たんぱく質、ペプチド、アミノ酸など、形の異なる含窒素成分を、窒素という共通の物差しで捉えられます。
なぜヌックマムを「窒素」で見るの?
原料の魚には、たくさんのたんぱく質が含まれています。魚と塩を仕込んで発酵・熟成させると、魚のたんぱく質は酵素や微生物などの働きによって、より小さなペプチドやアミノ酸などへ分解されていきます。
魚のたんぱく質
大きなたんぱく質の分子
より小さなペプチド
アミノ酸など
形が変わっても、それらの成分には窒素が含まれる
たんぱく質が分解されて形を変えても、それらの成分に含まれる窒素まで消えるわけではありません。分解物の一部が液体側へ溶け出すため、完成したヌックマムの総窒素を測れば、含窒素成分が液体中にどれくらい濃く存在するかを比較できます。
製造する側にとっては、抽出液や配合後のヌックマムを目的の濃度へ仕上げる目安になります。買う側にとっても、商品の特徴を知る手がかりになります。
総窒素は「熟成度」そのものではない
総窒素は、液体中の窒素成分の濃さを見る指標です。熟成期間、たんぱく質の分解状態、抽出方法、配合、濃縮の有無までを一つの数字で直接示しているわけではありません。
Độ đạm が高いと、何が違う?
まず確実に言えるのは、độ đạm が高いほど、1Lあたりに含まれる総窒素量が多いということです。
20°Nより40°Nの方が、総窒素という尺度では窒素成分が濃く含まれています。魚と塩を主原料とする伝統的なヌックマムでは、魚のたんぱく質に由来する成分の濃さを考えるうえで重要な情報です。
ただし、40°Nが20°Nの2倍だからといって、熟成が2倍進んでいる、アミノ酸が2倍ある、うま味が2倍強い、2倍おいしい、品質が2倍高いという意味にはなりません。

Độ đạm は、ヌックマム中の窒素成分の「濃さ」を見る重要な指標です。しかし、窒素の内訳、香り、味、透明度、原材料、製法までを一つにまとめた「総合点」ではありません。
総窒素40gの「中身」は、全部同じではない
40°Nなら、総窒素はおよそ40g/Lです。では、その40gはすべて、うま味を形づくるアミノ酸なのでしょうか。
そうではありません。
総窒素は、液体中にあるさまざまな窒素化合物をまとめて評価する値です。ヌックマムの総窒素には、アミノ酸に由来する窒素、ペプチドなどに由来する窒素、アンモニア態窒素、そのほかの含窒素成分が含まれます。

そのため、総窒素だけでなく、その中身を見る指標としてアミノ酸態窒素やアンモニア態窒素が使われます。
アミノ酸態窒素とは?|アミノ酸そのものの重量ではない
アミノ酸態窒素は、アミノ酸として存在する成分に由来する窒素を、規定された分析方法によって評価する指標です。
魚のたんぱく質は熟成中にペプチドやアミノ酸などへ分解されるため、総窒素に対してアミノ酸態窒素がどれくらいあるかは、窒素成分の中身を見る重要な手がかりになります。
総窒素 40g/L × 50% = アミノ酸態窒素 20gN/L
20gN/Lは窒素の重さ。アミノ酸そのものが20g/Lという意味ではありません。
アミノ酸は、窒素だけでできているわけではありません。炭素、水素、酸素、窒素などからできており、種類によって分子の大きさや窒素の割合も異なります。
したがって、20gN/Lという値から「アミノ酸そのものが全部で何g含まれる」と単純に換算することはできません。
アンモニア態窒素とは?|分解は進めば進むほどよいわけではない
アミノ酸などの分解がさらに進む過程では、アンモニア態の窒素成分も生じます。
アンモニア態窒素が存在すること自体を、そのまま「腐っている」と考えるわけではありません。しかし、総窒素に占める割合が高くなりすぎることは、品質上望ましくありません。
同じ「窒素」でも、見ているものが違う
総窒素
液体中に窒素成分が全部でどれくらいあるか。
アミノ酸態窒素
そのうち、アミノ酸として存在する成分に由来する窒素を評価する。
アンモニア態窒素
アンモニア態として存在する窒素を評価し、高くなりすぎていないかを見る。
現行の TCVN 5107:2018 は、何を見ている?
現行のベトナム国家標準 TCVN 5107:2018 は、nước mắm nguyên chất と nước mắm の両方について、窒素関連の指標を次のように定めています。
- 総窒素:10g/L以上
- アミノ酸態窒素:総窒素の35%以上
- アンモニア態窒素:総窒素の30%以下
Nước mắm nguyên chất は、魚と塩を自然発酵させて得る魚醤液を基本とする区分です。Nước mắm は、そこから調製する製品区分で、水、塩、砂糖、規定に従った食品添加物などを使用できる場合があります。
この違いからも、完成品の độ đạm だけを見て、原料魚を何kg使ったか、どのような配合か、どの製法で作ったかまで逆算することはできません。
また、TCVN 5107:2018 は窒素関連の数値だけでなく、色、透明度、香り、味、塩分、pH なども見ています。規格そのものが、総窒素だけで品質全体を判断しているわけではありません。
包装済み製品の表示についても、総窒素量をg/Lで示すだけでなく、アミノ酸態窒素を総窒素に対する割合で示すことが求められています。
出典・参考:TCVN 5107:2018「Nước mắm」(製品区分、化学指標、表示事項)
「30°N以上は特別級」って本当?
ヌックマムについて調べていると、「30°N以上は特別級」「25°N以上は上級」という説明を見かけることがあります。
これは、まったく根拠のない話ではありません。旧国家標準 TCVN 5107:2003 は、ヌックマムを次の4等級に分けていました。
| 旧区分 | 総窒素 | アミノ酸態窒素/総窒素 | アンモニア態窒素/総窒素 |
|---|---|---|---|
| Đặc biệt(特別級) | 30g/L以上 | 55%以上 | 20%以下 |
| Thượng hạng(上級) | 25g/L以上 | 50%以上 | 25%以下 |
| Hạng 1(1級) | 15g/L以上 | 40%以上 | 30%以下 |
| Hạng 2(2級) | 10g/L以上 | 35%以上 | 35%以下 |
ただし、TCVN 5107:2003 は現在の規格ではありません。2018年版へ置き換えられ、現行の TCVN 5107:2018 では、この全国共通の4等級制は採用されていません。
したがって、現在の商品を「30°Nだから国家標準上の特別級」と説明するのは正確ではありません。
もうひとつ重要なのは、旧規格の特別級も、総窒素30g/L以上だけで決めていたわけではないことです。アミノ酸態窒素、アンモニア態窒素、酸度、塩分、香り、味など、複数の条件を組み合わせて評価していました。
出典・参考:VSQI「TCVN 5107:2003 Nước mắm」/TCVN 5107:2003 本文/VSQI「TCVN 5107:2018 の公布と2003年版の廃止」
「自然なヌックマムは40~43°Nくらいまで」って本当?
ヌックマムについては、「自然発酵だけで作った場合、độ đạm は40~43°N程度が上限」という説明も見かけます。
確かに、伝統的な魚醤の最初の抽出液について、総窒素が30~40g/L程度になるとする研究報告があり、40°N前後は高い水準です。
しかし、40°Nや43°Nを、魚種や製法を問わずすべての魚醤に共通する科学的な絶対上限とすることはできません。
総窒素濃度は、魚種、魚と塩の割合、発酵・熟成、抽出、配合などによって変わります。さらに、完成した魚醤から水分を減らして濃縮すれば、1Lあたりの総窒素量を高めることもできます。
したがって、「43°Nを超えているから偽物」「40°Nを超えたら添加物で数字を作ったもの」と、度数だけから判断することはできません。
50°N・60°N・70°Nは、どう作る?
高い総窒素濃度を得る方法のひとつが、ヌックマムから水分を減らして濃縮することです。
水分が減ると、同じ窒素成分がより少ない液体量に集まり、1Lあたりの総窒素濃度が上がります。

真空濃縮|比較的低い温度で水分を減らす
真空状態では水の沸点が下がるため、通常より低い温度で水分を蒸発させられます。
ベトナムで報告された設備研究の一例では、総窒素20~30g/Lの伝統的なヌックマムを真空下で濃縮し、60~70g/Lへ高めることを目標とした装置が試作・運転されています。
ナノ濾過|膜を使って窒素成分を濃縮する研究
膜を利用して成分を分離するナノ濾過も研究されています。
2021年に発表された魚醤の研究では、前処理した魚醤をナノ濾過し、濃縮係数3.21の条件で、原料魚醤に比べて総窒素が2.21倍、アミノ酸態窒素が2.11倍になったと報告されています。塩化ナトリウムの増加は約5%でした。
高度数から製法を一つに決めつけない
60°Nや70°Nから確実に分かるのは、まず「総窒素濃度が非常に高い」ことです。その数字だけで、非常に長く熟成した、魚を特別に多く使った、濃縮した、添加物で調整した――と製法まで特定することはできません。
出典・参考:Lai & Nguyen(2021)“Enhancement of fish sauce quality by application of nanofiltration”(最初の抽出液の総窒素、ナノ濾過による濃縮)/Huỳnh Tiến Trungほか「魚醤濃縮設備の研究・設計・試験」(真空濃縮による20~30g/Lから60~70g/Lへの濃縮例)
Pha đấu と độ đạm は、どうつながる?
Độ đạm は、完成した商品をあとから評価するためだけの数字ではありません。製造中のヌックマムを、目標とする総窒素濃度へ仕上げるためにも使われます。
Phú Quốc の製法では、十分に熟した仕込みから最初に得る nước mắm cốt と、その後に得る後続液 nước mắm long を組み合わせ、目標とする độ đạm と風味へ調整します。この配合工程が pha đấu(ファー・ダウ)です。
つまり、抽出工程で得た性質の異なる魚醤液と、完成品の数字として表示される độ đạm は、pha đấu を通じてつながっています。
出典・参考:QCĐP 01:2023/KG「Nước mắm Phú Quốc」(nước mắm cốt、nước mắm long、pha đấu、目標とする độ đạm への調整)
結局、độ đạm から何が分かる?
ここまでを整理してみましょう。
Độ đạm から分かること、分からないこと
分かること
ヌックマム1L中に総窒素がどれくらい含まれているかが分かります。魚と塩を主原料とする伝統的なヌックマムでは、原料魚のたんぱく質に由来する含窒素成分の濃さを考える重要な手がかりになります。
độ đạm だけでは分からないこと
その窒素の内訳、熟成の進み方、アミノ酸そのものの総量、製法、香り、味、そして製品としての総合的な品質までは、一つの度数だけでは判断できません。
だからこそ、TCVN 5107:2018 も総窒素だけを見ているわけではありません。アミノ酸態窒素、アンモニア態窒素、塩分、官能的な特徴など、複数の項目を組み合わせてヌックマムを評価します。
また、同規格の本文では、包装されたヌックマムの表示事項として、総窒素量(g/L)だけでなく、アミノ酸態窒素についても総窒素に対する割合(%)で表示することを求めています。
つまり、độ đạm はヌックマムを見るための重要な一本の物差しではあるけれど、それ一本だけでヌックマムのすべてを測ることはできないということです。
じゃあ結局、何度のヌックマムがおいしい?
ここまで読んで、「では、độ đạm が何度ならおいしいヌックマムなの?」と思った方もいるでしょう。
結論から言えば、「○°N以上なら必ずおいしい」と一本の数字だけで決めることはできません。
ただし、だからといって độ đạm の数字に意味がないわけでもありません。
độ đạm が高いほど、1Lあたりの総窒素量が多いことは確かです。魚と塩を主原料として発酵・熟成させた伝統的なヌックマムであれば、原料魚のたんぱく質に由来する含窒素成分が、より濃く含まれていることを考える重要な手がかりになります。
そのため、魚のうま味やコクをしっかり感じる、濃厚なヌックマムを探すときには、độ đạm は参考にする価値のある数字です。
一方で、総窒素が多ければ、そのまま「おいしさ」も同じ割合で大きくなるわけではありません。
ヌックマムの味は、アミノ酸などのうま味成分だけで決まるのではなく、塩味、香り、熟成によって生まれるさまざまな成分のバランスによって形づくられます。
「高いほどおいしい」ではない。でも、数字は役に立つ
độ đạm が高い = 必ずおいしい、ではありません。
しかし、魚由来の成分がしっかりした、濃厚なヌックマムを探すための重要な手がかりにはなります。
結論|Độ đạm は重要な物差し。でも、総合点ではない
- 30°N・40°Nは、ヌックマム1L中の総窒素量を示す目安
- 40°N ≒ 総窒素40g/Lであり、たんぱく質そのものが40g/Lという意味ではない
- 総窒素には、アミノ酸、ペプチド、アンモニア態など、さまざまな形の窒素が含まれる
- 現行 TCVN 5107:2018 に、旧2003年版の全国共通4等級制はない
- 40~43°Nは絶対上限ではなく、濃縮によって50°N・60°N・70°Nへ高める方法もある
- 数字が高いほど総窒素濃度は高いが、必ずおいしい・高品質・長期熟成という意味ではない
Độ đạm は、ラベルに書かれたヌックマムの特徴を理解するための、とても便利な物差しです。ただし、測っているのはあくまで窒素成分の濃さ。数字を正しく重視しながら、数字だけを神格化しないことが、30°Nや40°Nと上手につき合うポイントです。
ヌックマムをさらに知りたい方へ
cốt・long・pha đấu など、抽出・配合工程を詳しく知りたい方へ
熟した仕込みから液を取り出し、後続液を抽出して配合するまでの工程は、以下の記事で詳しく解説しています↓
総窒素以外の品質・規格・安全性を詳しく知りたい方へ
製品区分、官能要件、食品添加物、安全性、表示まで含めて読みたい方には、「ヌックマムの品質・規格・安全性|TCVN 5107:2018を読み解く」がおすすめです。
売り場での実践的な選び方を知りたい方へ
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ヌックマムの意味や味、歴史、産地、使い方など、全体像を知りたい方は以下の総合記事がおすすめです↓
