ヌックマムの品質・規格・安全性|TCVN 5107:2018を読み解く

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ふむにちわ!

ヌックマム(nước mắmは、魚と塩を発酵・熟成させて作る、ベトナムを代表する魚醤です。

その品質について見るためには、どのような視点が必要になるでしょうか。

ひと口に「品質」といっても、ヌックマムは一つの数字だけで評価できるものではありません。

原料や作り方、色・透明度・香り・味、窒素成分や塩分、食品としての安全性、そして表示まで、いくつもの側面があります。

この記事では、ベトナムの国家標準 TCVN 5107:2018「Nước mắm(ヌックマム/魚醤)」を中心に、製品区分、官能・化学要件、食品添加物、安全性、ラベル表示、国際規格 Codex との違いまで詳しく見ていきます。

ヌックマム全体についてまず俯瞰したい場合は、以下の記事がおすすめです↓

目次

ヌックマムの「品質」は、何を見れば分かる?

ヌックマムを見ていくとき最も分かりやすい指標のひとつとして、độ đạm(ド・ダム)があります。

ヌックマムのラベルに大きく表示されている độ đạm のイメージ

độ đạm(ド・ダム)は、ヌックマム1L中の総窒素量を基準にした指標で、原料魚のたんぱく質に由来する含窒素成分の濃さを考える重要な手がかりです。

しかし、それだけでヌックマム全体の品質が決まるわけではありません。

TCVN 5107:2018 を見ると、ヌックマムは総窒素だけで評価されているわけではありません。何を原料にするのか、色・透明度・香り・味はどうか、窒素成分や塩分などはどうか、さらに食品として安全であるか――複数の視点から製品を捉えています。

ヌックマムの品質を見る5つの視点。品質は複数の側面から捉える。
図:ヌックマムの品質を見る5つの視点。品質は複数の側面から捉える。

ヌックマムを見る5つの視点

① 原料・作り方
何を原料にし、どのように作られたものなのか。

② 見た目・香り・味
色、透明度、香り、味などはどうか。

③ 成分
総窒素、アミノ酸態窒素、アンモニア態窒素、塩分、pHなどはどうか。

④ 安全性
重金属や微生物など、食品として安全性に関わる条件を満たしているか。

⑤ 表示
その製品が何でできていて、どのような品質指標を持つのか、消費者にどう示されているか。

つまり、độ đạm は、これらのうちの「成分を見るための重要な指標のひとつ」です。

そもそも TCVN 5107:2018 って何?

この記事の中心となる TCVN 5107:2018

TCVNTiêu chuẩn quốc gia、日本語にすれば「ベトナム国家標準」です。

TCVN 5107:2018 は、ヌックマムを対象として、用語の定義、原料、官能的な特徴、化学成分、添加物、試験方法、包装・表示・保管などを定めた国家標準です。2018年版は、それ以前の TCVN 5107:2003 を置き換えました。

ただし、ここでひとつ重要なことがあります。

「国家標準に書かれていることが、すべてそのまま法律上の強制義務であるというわけではありません。

ベトナムの標準・技術規則制度では、「国家標準である TCVN」 と、「強制適用される技術規則」は区別されています。TCVN は原則として任意に適用される標準ですが、法令や技術規則の中で引用されれば、その引用された範囲が強制適用となる場合があります。

略称日本語で言えば基本的な位置づけ
TCVNベトナム国家標準原則として任意適用。法令・技術規則などから引用される場合は、その範囲で強制適用になり得る
QCVN国家技術規則強制適用
QCĐP地方技術規則対象となる地域・範囲で強制適用
CodexFAO/WHOによる国際食品規格国際的な基準。各国の国内法そのものではない

TCVN と「法的義務」は分けて読む

TCVN 5107:2018 はヌックマムを理解するための重要な国家標準ですが、そこに書かれた項目がすべて、そのまま全市販品への法的義務になるわけではありません。

規格を読むと、2つの「ヌックマム」が出てくる

TCVN 5107:2018 の「用語と定義」を読むと、nước mắm nguyên chấtnước mắm という、よく似た二つの名前が登場します。

名前はよく似ていますが、規格上は同じ意味ではありません。

Nước mắm nguyên chất とは?

Nguyên chất は、漢字にすると「原質」にあたり、「純粋な」「混ぜ物をしていない」といった意味で使われるベトナム語です。

TCVN 5107:2018 では nước mắm nguyên chất について、「魚と塩の混合物である chượp chín を、少なくとも6か月自然発酵させて得られる透明な液体製品」として定義しています。

Nước mắm nguyên chất であるためには、食品添加物は使用できません。

また、小売製品の表示についても、nước mắm nguyên chất の原材料は魚と塩とされています。

つまり、ここでいう nước mắm nguyên chất は、「最初に取れた液」や「高い度数のヌックマム」といった抽出順や濃さを表す言葉ではなく、TCVN 5107:2018 が定める製品区分です。

Cốt・long は製品区分とどうつながる?

Chượp(チュオップ)とは、魚と塩を仕込んで発酵・熟成させたものです。そこから最初に得る液を nước mắm cốt、その後に再抽出して得る液を nước mắm long と呼ぶ製法があります。

cốt と long は、「どの段階で、どのように抽出した液なのか」という製造工程上の呼び分けでした。

一方、nước mắm nguyên chất と nước mắm は、TCVN 5107:2018 が製品をどう定義するかという製品区分です。

つまり、この二組は同じ基準で分けた名前ではありません。

分類しているものが違う

nước cốtnước long
抽出の段階や方法を表す製造用語。

nước mắm nguyên chất と ノーマルの nước mắm
TCVN 5107:2018 における製品の定義。

まず nước mắm cốt については、関係が比較的はっきりしています。

Phú Quốc の公的な製法資料では、熟成した chượp から最初に得る nước mắm cốt(cốt y)を、「nước mắm nguyên chất、まだ pha đấu(配合) していないもの」と説明しています。

したがって、Phú Quốc の cốt は、製造工程上は「最初の抽出液」、TCVN の製品区分で見れば nước mắm nguyên chất に当たるものと理解できます。

では、nước mắm long はどうでしょうか。

ここは cốt ほど単純ではありません。

Phú Quốc の現行地域技術規則では、cốt を取り終えた chượp に、飽和食塩水、またはより濃度の低い nước mắmを加えて再び抽出し、nước mắm long を作ります。

つまり、long には少なくとも、何を chượp に加えて再抽出したかが異なる二つの経路があります。

cốt を取り終えた chượp

① 飽和食塩水
または
② より濃度の低い nước mắm

再抽出

nước mắm long

この違いがあるため、「long ならすべて nguyên chất」や、「long ならすべて nguyên chất ではない」のように、long という名前だけで一律に判断することはできません。

実際、2019年に nước mắm の製造規範案について出された業界関係者の意見には、「nước mắm nguyên chất には nước mắm cốt と nước mắm long が含まれる」という見解もあります。

ただし、その資料では、そこでいう long が飽和食塩水から作った long なのか、より濃度の低い nước mắm から作った long なのかまでは示されていません。

そのため、この業界意見だけを根拠に、飽和食塩水を使って作った long まで一律に nước mắm nguyên chất と判断することはできません。

一方で、もう一つの経路は少し事情が違います。

仮に、cốt を取り終えた chượp に加える「より濃度の低い nước mắm」そのものが nước mắm nguyên chất であり、そこへ水、砂糖、食品添加物などを新たに加えずに long を得たとします。

その場合は、使われている魚醤も、もとの chượp も魚と塩に由来するため、その long も TCVN 5107:2018 の nước mắm nguyên chất の定義に当てはまる余地があると考えられます。

ただし、これは TCVN 5107:2018 と Phú Quốc の製法規則を照らし合わせた考察です。TCVN 5107:2018 自体には cốt や long という製造用語が登場せず、このケースを直接判定する規定もありません。また、今回確認した資料の範囲では、この条件で作られた long を実際に nước mắm nguyên chất と判定・表示した明確な事例までは確認できないのが現状です。

同じことは、cốt と long を pha đấu(配合)した場合にも関係します。

Phú Quốc では、cốt と long を組み合わせて目的とする濃さや風味の製品を作ります。公的な製法資料では、cốt(cốt y)を「nguyên chất・未 pha đấu」と明記する一方、cốt と long を pha đấu した製品は loại 1、loại 2、loại 3 などとして説明されています。

ただし、pha đấu したという事実だけで、ただちに nguyên chất ではなくなるとする規定も、TCVN 5107:2018 にはありません。

もし cốt も long も nước mắm nguyên chất の条件を満たし、その二つだけを混ぜたのであれば、完成品も nguyên chất と考えられる可能性は理論上残ります。 一方、塩水由来の long を使った場合などは事情が異なります。

つまり、cốt・long・pha đấu という製造工程の名前だけでは、最終製品が nước mắm nguyên chất かどうかを完全には判定できないということです。何を使って、どのように作られた液なのかまで見る必要があります。

出典・参考: TCVN 5107:2018「Nước mắm」3.1~3.2、7.2 (nước mắm nguyên chất・nước mắm の定義、原材料表示)
QCĐP 01:2023/KG (Phú Quốc の nước mắm cốt、nước mắm long、pha đấu の定義・製法)
Cục Di sản văn hóa「Nghề làm nước mắm Phú Quốc」 (cốt y、long、pha đấu の実際の製法・製品区分)
TCVN 12607:2019 草案に対する業界関係者の意見 (「nước mắm nguyên chất には cốt と long が含まれる」とする見解)

では、単に nước mắm と書かれたものは?

一方、TCVN 5107:2018 で単に nước mắm と定義される製品は、nước mắm nguyên chất をもとに作り、必要に応じて塩水、砂糖、食品添加物を加えることができ、色や香りを調整することもできます。

ここでいう「塩水を加える」は、先ほどの long を抽出するために塩水を chượp に通す工程と同じ意味ではありません。

TCVN の nước mắm の定義で述べているのは、nước mắm nguyên chất をもとに製品を仕上げる際に、塩水などを加えることができるという製品区分の話です。

TCVN 5107:2018におけるnước mắm nguyên chấtとnước mắmの製品区分
TCVN 5107:2018 における nước mắm nguyên chất と nước mắm の製品区分
Nước mắm nguyên chấtNước mắm
基本的な位置づけ魚と塩の chượp を自然発酵させて得る液体製品nước mắm nguyên chất をもとに仕上げる製品
発酵少なくとも6か月の自然発酵原料となる nguyên chất の段階で発酵済み
原材料表示魚、塩nước mắm nguyên chất、水、塩、砂糖(使用する場合)、使用した食品添加物
仕上げ時の塩水TCVN の製品定義には含まれない追加可能
砂糖TCVN の製品定義には含まれない追加可能
食品添加物使用不可現行規定で認められたものを使用可能
色・香りの調整規格上の定義には含まれない可能

TCVN 5107:2018 は、nước mắm nguyên chất と nước mắm の両方を、それぞれ異なる製品として定義しています。

違いを見るときには、「塩水を使ったか」という一工程だけで判断するのではなく、どの段階で何を加え、それによってどのような製品になったのかまで見る必要があります。

この違いは、「伝統的なヌックマムとは何か」を考えるときにも重要になってきます。

規格はヌックマムの何に着目している?

規格は「数字」だけでなく、色・香り・味も見ている

TCVN 5107:2018 が評価するのは、分析によって得られる数値だけではありません。

しかし、TCVN 5107:2018 は、人が目・鼻・舌で感じる官能的な特徴についても基準を設けています。

見る項目TCVN 5107:2018 が求める状態簡単に言えば
黄褐色~濃褐色で、その製品に特有の色ヌックマムらしい褐色系の色
透明度透明で濁りがなく、塩の結晶を除いて沈殿物がない濁ったり、異物が沈んだりしていない
香りヌックマム特有の香りがあり、異臭がない魚醤らしい香りと、異常な臭いを区別する
魚たんぱく由来のうま味と後味があり、塩味はあるが刺激的な塩辛さではないただ塩辛いだけではなく、魚由来のうま味と余韻がある
目に見える異物認められない原料由来ではない異物がない

特に興味深いのが、です。

規格は単に「塩辛いこと」をヌックマムらしい味とはしていません。魚のたんぱく質が分解されて生まれるうま味と、口に残る後味があり、塩味はあっても刺激的な塩辛さではないことを求めています。

ヌックマムの品質は、数値だけでなく、実際の色・香り・味も含めて評価されていることが分かります。

数字で見ると、何が違う?

次に、分析によって数値で確認する項目を見てみましょう。

総窒素、アミノ酸態窒素、アンモニア態窒素は、それぞれ意味の異なる指標です。ここでは「規格の中でどう使われているか」に注目します。

項目nước mắm nguyên chấtnước mắm何を見る?
総窒素10g/L以上10g/L以上含窒素成分全体の濃さ
アミノ酸態窒素総窒素の35%以上総窒素の35%以上たんぱく質の分解状態を見る手がかり
アンモニア態窒素総窒素の30%以下総窒素の30%以下アンモニア態窒素が高くなりすぎていないか
pH5.0~6.54.5~6.5液体の酸性・アルカリ性の状態
塩分(NaCl)245g/L以上200g/L以上食塩濃度

nước mắm nguyên chất と nước mắm は、窒素に関する基準は同じですが、pH と塩分の基準が異なります。

とくに塩分は、nước mắm nguyên chất が245g/L以上なのに対し、nước mắm は200g/L以上です。

前節で見たように、nước mắm は nguyên chất をもとに塩水や砂糖などを加えて仕上げることができます。規格上も、両者をまったく同じ製品として扱っているわけではないことが、数値からも見えてきます。

出典: TCVN 5107:2018「Nước mắm」4.2~4.5 (官能要件、総窒素、アミノ酸態窒素、アンモニア態窒素、pH、塩分、重金属・微生物の扱い)

添加物は、どのように扱われている?

TCVN 5107:2018 では、nước mắm nguyên chất と nước mắm で食品添加物の扱いが明確に分けられています。

nước mắm nguyên chất と nước mắm では、添加物の扱いが違う

nước mắm nguyên chất
食品添加物は使用できません。

nước mắm
現行の食品添加物規則で認められた添加物を、認められた条件・使用量の範囲で使用できます。

つまり、添加物を使った製品も、TCVN上の nước mắm という製品カテゴリーには含まれます。

ただし、「何を入れてもよい」という意味ではありません。

ベトナムでは食品添加物について別の規則があります。ここでは深く踏み込みませんが、使用できる添加物、対象となる食品、最大使用量などが管理規定として存在しています。魚醤は食品添加物制度上、fish sauce を例に含む「透明なソース類」のカテゴリーで扱われます。

また、添加物と一口に言っても役割は同じではありません。保存性を保つためのもの、味を調えるものなど、目的の異なるものがあります。

したがって、商品を見るときは「添加物があるか、ないか」だけでなく、「何が、何のために使われているのか」を見る方が実態に近いでしょう。

一方で、魚と塩だけから作られ、添加物を使わない nước mắm nguyên chất を選びたいのであれば、原材料表示は非常に重要な手がかりになります。

出典: TCVN 5107:2018「Nước mắm」5 (nước mắm nguyên chất への食品添加物不使用、nước mắm での現行規定に従った使用)

「品質がよい」と「安全」は、同じ話ではない

ここまでは、色・香り・味や成分など、ヌックマムそのものの品質を見てきました。食品として流通させるには、それとは別に安全性も確認する必要があります。

TCVN 5107:2018 は、重金属と微生物について具体的な数値を本文に並べず、現行の規定に従うとしています。安全性の基準は TCVN 5107:2018 だけでは完結せず、食品安全に関する別の技術規則や制度と合わせて見る必要があります。

ヌックマムの安全性に関係する主な規格と制度
ヌックマムの安全性に関係する主な規格・制度。確認する項目によって、参照する規格や制度が異なる。

国内で売るヌックマムは、どうやって安全性を確認する?

ベトナム国内で流通する一般の包装食品では、Nghị định(政令)15/2018/NĐ-CP に基づく自己公表制度が基本になります。

自己公表には、原則として12か月以内に発行された食品安全試験結果を用います。試験は指定検査機関または ISO/IEC 17025 に適合すると認定された検査機関で行い、対応する QCVN などに定められた安全指標を確認します。

この自己公表時の試験は、全製造ロットを検査する制度とは異なります。Nghị định 15/2018/NĐ-CP は、すべての製品について半年ごと・1年ごとといった一律の定期検査周期も定めていません。製造者は公表した製品の安全性に自己責任を負い、行政による監視・検査も別途行われます。

重金属はどう管理される?

食品中の重金属については、強制適用される国家技術規則 QCVN 8-2:2011/BYT が上限を定めています。

この規則では nước chấm(ヌックチャム:つけだれ類の総称) という食品区分が使われています。日常語では nước chấm は「つけだれ」全般を指しますが、食品安全上の分類では ヌックマムがこの区分で扱われる実例があり、実際の ヌックマムの製品規格・検査でも QCVN 8-2:2011/BYT が参照されています。

重金属nước chấm 区分の上限
ヒ素(As)1.0 mg/kg または mg/L
カドミウム(Cd)1.0 mg/kg または mg/L
鉛(Pb)2.0 mg/kg または mg/L
水銀(Hg)0.05 mg/kg または mg/L

実運用でも重金属は検査されています。たとえば2016年にベトナム保健省が市販 ヌックマムを調査した際には、ヒ素、鉛、水銀、カドミウムなどが検査対象になりました。

微生物は、現在どの基準で見る?

旧 TCVN 5107:2003 には、ヌックマム専用の微生物基準表がありました。現行の TCVN 5107:2018 ではその表を置かず、微生物は現行規定に従う形に変わっています。

現在、食品の微生物汚染を規制する国家技術規則は QCVN 8-3:2012/BYT です。ただし、その食品分類にはヌックマムを名指しした専用の行がありません。

以前は Quyết định 46/2007/QĐ-BYT(保健省決定) に「動物由来の nước chấm」という区分があり、一般生菌数、Coliforms、E. coli、Staphylococcus aureus、Clostridium perfringens、Salmonella、Vibrio parahaemolyticus などの上限が示されていました。しかし、この旧規定の微生物部分は2023年に廃止され、現在は QCVN 8-3:2012/BYT を適用する整理になっています。

そのため現在の実務では、製品の性質や原材料、食べ方、対応する食品群などを踏まえ、製造者が自社製品に必要な安全指標を設定します。実際のヌックマムの自己公表資料でも、一般生菌数、Coliforms、E. coli、Salmonella、Staphylococcus aureus、Clostridium perfringens などを検査項目としている例があります。

魚醤で注意される「ヒスタミン」とは?

魚醤の安全性を考えるうえで、もうひとつ重要になるのがヒスタミンです。

ヒスタミンは、魚に含まれるアミノ酸の一種であるヒスチジンから、細菌の働きによって生成することがある物質です。原料魚の取り扱いや発酵・熟成中の条件によって蓄積することがあり、多量に摂取すると、顔の紅潮、じんましん、頭痛などの症状を引き起こすことがあります。

Codex Alimentarius Commission(コーデックス委員会)は、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が設立した、国際的な食品規格を策定する政府間組織です。

その魚醤規格 Codex CXS 302-2011「Standard for Fish Sauce」 では、魚醤に含まれるヒスタミンについて、40mg/100g(=400mg/kg)以下という基準が示されています。

ベトナムの伝統的なヌックマムでは400mg/kgを超える例も報告されてきました。ベトナムの科学技術情報機関が紹介する研究では、一部で1,000~3,000mg/kgに達する例があり、Codex基準を満たすことが輸出上の技術的課題になったとされています。ヒスタミン分解能を持つ好塩性細菌を利用し、試験製造品を385mg/kgまで抑えた研究例もあります。

ちなみに、国内向けヌックマムの国家標準 TCVN 5107:2018 には、ヒスタミンの具体的な上限値は設けられていません。

一方、2026年現在の輸出水産食品の安全検査・認証制度を定める Thông tư(通達)80/2025/TT-BNNMT では、発酵法で製造されたヌックマムについてヒスタミン 400mg/kg が管理基準として設定されています。輸出先市場の要求や公的な安全検査・認証の対象となる場合、ヒスタミンは実際の検査・管理項目になります。

国内流通品は輸出品とは管理の仕組みが異なり、すべてのヌックマムについて全製造ロットのヒスタミン測定を一律に求める制度にはなっていません。

測定方法については、2025年に国家標準 TCVN 14442:2025 が制定されています。水産物・水産加工品に含まれるヒスタミンを、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)という成分分析法で検出・定量する方法を定めたもので、魚醤も分析対象となる食品のひとつです。

ラベルを見ると、何が分かる?

ここまでの内容は、実際の商品ラベルを読むときにも役立ちます。

TCVN 5107:2018 は、小売用に包装された製品について、標準上の具体的な表示事項として、製品名を 「Nước mắm nguyên chất」 または 「Nước mắm」 とし、原材料についても両者を分けて記載することを示しています。

TCVN 5107:2018で示される項目Nước mắm nguyên chấtNước mắm
製品名Nước mắm nguyên chấtNước mắm
原材料魚、塩nước mắm nguyên chất、水、塩、砂糖(使用する場合)、使用した具体的な食品添加物
主要品質指標総窒素量(g/L)、アミノ酸態窒素/総窒素(%)

表示についても、TCVN 5107:2018 が標準として示すヌックマム固有の表示事項と、食品一般について法令上義務づけられる表示事項という二つの層があります。

ベトナムでは商品表示について別の法令体系があり、食品には原材料、内容量、製造日、期限、使用・保存方法など、その製品に応じた表示事項があります。

つまり実際のラベルは、「ヌックマムの国家標準」と「食品一般の表示制度」を合わせて見なければならないのです。

商品を選ぶとき、ラベルのどこを見る?

製品名
Nước mắm nguyên chất なのか、Nước mắm なのか。

原材料
魚と塩だけなのか、水・砂糖・食品添加物なども使われているのか。

総窒素・độ đạm
魚由来の含窒素成分の濃さを見る手がかり。

アミノ酸態窒素
表示されていれば、総窒素だけでは分からない窒素成分の状態をもう一段詳しく見る手がかり。

産地・製法など
地理的表示や製造者の説明と合わせると、どのように作られた製品なのかがさらに見えてきます。

ヌックマムの原材料表示のイメージ
ヌックマムの原材料表示のイメージ。ラベルを見ると、魚と塩だけなのか、ほかの原材料も使われているのかを確認できる。

ラベルを実際の商品選びにどう生かすかは、別記事「ヌックマムの選び方|ラベルのどこを見る? 原材料・độ đạm・産地まで」で、商品を想定しながら詳しく整理します。

出典: TCVN 5107:2018「Nước mắm」7.2 (包装済み小売製品の製品名、原材料、主要品質指標の表示)

国際規格 Codex と比べると?

ヒスタミンのところで登場したコーデックス委員会の魚醤規格 Codex CXS 302-2011「Standard for Fish Sauce」 は、ヒスタミンだけを定めた規格ではありません。魚醤について、原料、見た目、香り・味、総窒素、アミノ酸態窒素、pH、塩分なども定めています。

主な項目ベトナム国家標準
TCVN 5107:2018
国際食品規格
Codex CXS 302-2011
総窒素10g/L以上10g/L以上
アミノ酸態窒素総窒素の35%以上総窒素の40%以上
pHNước mắm nguyên chất:5.0~6.5
Nước mắm:4.5~6.5
伝統的製品:5.0~6.5
発酵を補助する原料を用いる場合でも4.5未満としない
塩分Nước mắm nguyên chất:245g/L以上
Nước mắm:200g/L以上
200g/L以上
ヒスタミンTCVN 5107:2018本文には具体的上限値なし400mg/kgの基準

こうして比べると、同じ魚醤を対象にしていても、すべての数字が同じではないことが分かります。

これは、どちらかが単純に「正しくて、もう一方が間違っている」という話ではありません。国際規格と各国の国家標準では、制度上の役割や製品の捉え方が異なります。

規格値を見るときには、「何という規格の、どの製品カテゴリーに対する数字なのか」まで確認することが大切です。

出典: Codex CXS 302-2011「Standard for Fish Sauce」 (総窒素、アミノ酸態窒素、pH、塩分、ヒスタミン等。2024年改正・2026年訂正反映版)

結局、「高品質なヌックマム」とは?

ここまで来ると、最初の疑問に戻れます。

結局、何を満たしていれば「高品質なヌックマム」と言えるのでしょうか。

まず、はっきりさせておきたいことがあります。

現行の TCVN 5107:2018 には、「この条件を満たせば全国共通で高級品・最高級品」という等級制度はありません。

したがって、ここでいう「高品質」は、現行TCVN上の正式な等級名ではなく、製品の状態を総合して考えるための言葉です。

ここまで見てきた各項目を、ひとつずつ切り離して評価するのではなく、原料・製法、官能的な状態、成分、安全性、表示を合わせて見ることが重要です。

高品質を考えるなら、一本の数字ではなく全体を見る

原料・製法
何から、どのように作られたのか。

官能的な状態
色・透明度・香り・味に異常がなく、その製品らしい特徴を持っているか。

成分
総窒素だけでなく、アミノ酸態窒素、アンモニア態窒素、塩分、pHなどを含めてどういう状態か。

安全性
重金属や微生物など、食品としての安全性に問題がないか。

表示
何を原料とし、どのような製品なのかが適切に示されているか。

ここまで見てきたように、ヌックマムの品質は、原料や製法、色・香り・味、成分、そして食品としての安全性など、いくつもの側面から見ることができます。

規格は、そうした違いを共通の基準で確認するための重要な物差しになります。

とはいえ、最後に「どのヌックマムがおいしいか」となれば、そこは食べる人の好みもあります。濃厚なものが好きな人もいれば、料理に使いやすい穏やかな味を好む人もいるでしょう。

規格や表示の意味が分かれば、店頭で同じように見えるヌックマムにも、それぞれ違いがあることが見えてきます。

主な出典・参考: TCVN 5107:2018「Nước mắm」 (用語・定義、原料、官能要件、化学指標、添加物、表示)
ベトナム国家法令データベース (標準・技術規則制度、商品表示関係法令)
QCVN 8-2:2011/BYT (食品中の重金属汚染限度)
Thông tư 24/2019/TT-BYT 統合文書 (食品添加物の管理・使用)
Codex CXS 302-2011「Standard for Fish Sauce」 (国際的な魚醤規格)

30°N・40°Nなどの数字そのものを詳しく知りたい方は、以下の記事がおすすめです↓

製品名、原材料、độ đạm、産地など、実際のラベルをどの順番で見ればよいかはこちら↓

ヌックマム全体を改めて俯瞰したい方はこちら↓

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