ふむにちわ!
ヌックマム(nước mắm)は、魚と塩を発酵・熟成させて作る、ベトナムの魚醤です。「国民食」ならぬ「国民調味料」と呼べるほど、ベトナムの食卓に深く根付いています。
売り場でボトルを見比べると、製品名、độ đạm、原料魚、産地、GI(地理的表示)、原材料など、さまざまな言葉や数字が並んでいて、正直どこを見ればいいのか分かりにくいものです。数字が高いもの、色が濃いもの、魚と塩だけで作られたもの、有名産地の名前が付いたもの — 結論からいうと、そのどれか一つだけで「間違いない一本」を決めることはできません。
大切なのは、製品名 → 原材料 → độ đạm(総窒素濃度を基準とする度数) → 原料魚・産地 → 色 → 用途・好みの順に、情報を組み合わせて読むことです。
この記事では、ベトナム語のラベルに出てくる言葉を一つずつ確認しながら、この順番で一本を選ぶ実践的な読み方を整理します。
ヌックマム全体をまず俯瞰したい場合は、以下の記事もどうぞ↓

結論 — ラベルは、この順番で見る
ベトナム語には中国語由来の語をベトナム式の音で読む từ Hán Việt(漢越語)が多くあります。日本語の漢語と対応が見える語には、thành phần【成分】のように対応する漢字を隅付き括弧【 】で添えます(日本語での意味・補足を示す通常の括弧( )とは区別)。漢字が分かると、ベトナム語を知らなくてもラベルの意味を推測しやすくなります。
ヌックマムのラベルを見る5つの順番
① 製品名 — Nước mắm nguyên chất か Nước mắm か。nguyên chất【原質】は漢越語で、現代語では「純粋・混ぜ物なし」を意味します。ヌックマムの規格では、魚と塩の chượp(チュオップ:発酵・熟成中の仕込み)から得た製品かどうかを区別する語として使われます。
② 原材料 — 見出しは thành phần【成分】(漢越語)。Nước mắm nguyên chất なら cá(魚)とmuối(塩)のみ、Nước mắm ではそこに水(nước)、砂糖(đường【糖】)や食品添加物が加わります。
③ Độ đạm・総窒素 — 商品には「40°N」のような表示がありますが、規格上の正式表記は Hàm lượng nitơ tổng số(総窒素量)です。hàm lượng【含量】、tổng số【総数】は漢越語、nitơは「窒素」を意味する外来語です。Hàm lượng nitơ axit amin(アミノ酸態窒素量)が併記されることもあります。
④ 原料魚・産地・GI — 原料魚の名前が書かれている場合もあります。産地は Xuất xứ【出處】(原産地)やSản xuất tại ~(~で生産)で確認します。GI(地理的表示)は chỉ dẫn địa lý(chỉ dẫn【指引】+ địa lý【地理】)。なおĐịa chỉ【地址】(住所)は事業者の所在地であり、原産地そのものとは限りません。
⑤ 色・香り・味 — 外観や官能的な特徴は、最後の補助情報として使います。色だけで品質や産地を決めません。
この順番には理由があります。同じような琥珀色でも Nước mắm nguyên chất と Nước mắm では作られ方が異なりますし、同じ「40°N」でも原料・製法・産地・味のすべてが分かるわけではありません。反対に、原材料表示や産地表示まで合わせて読むと、その一本がどのような考え方で作られた商品なのかがかなり見えてきます。
一つの数字で決めるのではなく、情報を組み合わせて読む。
これが基本です。では、①製品名から順に見ていきましょう。
主な出典・参考:
TCVN 5107:2018「Nước mắm」(製品名、Thành phần、Hàm lượng nitơ tổng số、Hàm lượng nitơ axit amin など、小売用ラベルの記載項目)
Nghị định 37/2026/NĐ-CP(2026年現在の商品ラベル一般規定。原材料・原産地・食品添加物などの表示)
① 製品名 — Nước mắm nguyên chất と Nước mắm
ベトナムの売り場では、正面にどれも大きく NƯỚC MẮM と書かれているように見えますが、よく見ると Nước mắm nguyên chất と書かれたものと、単に Nước mắm と書かれたものがあります。日本語ではどちらも「ヌックマム」「魚醤」で済んでしまいそうですが、ベトナム国家標準 TCVN 5107:2018「Nước mắm」はこの二つを別の製品として定義しています。
Nguyên chất【原質】は漢越語で、現代ベトナム語では「純粋な・混ぜ物のない」という意味で使われます。TCVN 5107:2018 では、Nước mắm nguyên chất を魚と塩の混合物を少なくとも6か月自然発酵させて得られる透明な液体製品と定義し、食品添加物の使用を認めていません。一方、単に Nước mắm とされる製品は、Nước mắm nguyên chất をもとに仕上げる製品で、必要に応じて塩水・砂糖・認められた食品添加物を使い、色や香りを調整できます。
| ラベルで見る名称 | TCVN上の位置づけ | 買う側から分かること |
|---|---|---|
| Nước mắm nguyên chất | 魚と塩の混合物を少なくとも6か月自然発酵させて得る液体製品。食品添加物は使用不可 | 魚と塩を中心にした自然発酵由来の製品を探しているときの重要な手がかり |
| Nước mắm | Nước mắm nguyên chất をもとに仕上げる製品。塩水・砂糖・食品添加物などを使用できる | 味や濃さを調整した製品を含む。何が使われているかは原材料表示まで確認 |

単に Nước mắm と書いてあるのは「偽物」ということではありません。TCVN 5107:2018 自体が、両方をそれぞれ異なる製品として扱っています。また、Nước mắm nguyên chất の方が「本物」「高級」に見えるかもしれませんが、製品名から直接分かるのはどの製品区分かということだけで、原料魚・熟成状態・độ đạm・香り・味・産地の良し悪しまでは分かりません。Nước mắm nguyên chất と Nước mắm は「おいしさの上下」を決める区分ではなく、作り方・原材料の考え方の違いを示す区分だと考えてください。
Cốt や nhỉ/nhĩ は、また別の話
商品名やラベルでは nước mắm cốt、nước mắm nhỉ、nước mắm nhĩ という表現も見かけますが、これらは Nước mắm nguyên chất/Nước mắm という製品区分とは、見ている観点が違います。
注目している点が違う
cốt — 熟成した chượp からどの段階で得た液かに注目する呼び名。TCVN 8336:2010 は nước cốt を「chượp chín(熟した chượp)から最初に抜き取るヌックマム」と定義。Phú Quốc の製法では、抜いた液を kéo rút(循環抽出)で整えた最初の抽出系統を指します。
nhỉ/nhĩ — 液が滲み出る・滴り出る状態に注目する呼び名。「一番」「最高級」を意味する語ではありませんが、現場では最初に得る濃い液を指し、結果として nước cốt と同じ液を指す場合もあります。
nguyên chất — TCVN 5107:2018で、どのような製品として定義されるかを示す区分。
つまり、ラベルに cốt や nhỉ/nhĩ とあっても、それだけで Nước mắm nguyên chất かどうか、品質が上か下かまでは判断できません。製品名の意味を切り分けたところで、次は裏面の Thành phần(原材料)を見ていきます。
出典:
TCVN 5107:2018「Nước mắm」3.1〜3.2、5、7.2(製品定義、食品添加物の扱い、表示事項)
TCVN 8336:2010「Chượp chín」(nước cốt の用語定義)
② 裏面の Thành phần — 何が入っているかを、そのまま読む
正面の製品名を見たら、ボトルを裏返して thành phần という文字を探します。Thành phần【成分】は漢越語ですが、栄養成分表とは違い、ここでは「何を使って作ったか」という原材料欄として読むと分かりやすいです(商品説明では nguyên liệu【原料】という語もよく使われます)。

2026年現在のベトナムの商品ラベル規則では、食品の原材料は重量の多いものから少ないものへ順番に表示するため、最初に何が書かれているかを見るだけでも商品の組み立て方が見えてきます。たとえば Thành phần: Cá cơm, muối.(Cá cơm=カタクチイワシ類、塩)なら魚と塩だけの非常にシンプルな構成です。一方、Thành phần: Nước mắm nguyên chất, nước, đường, chất điều vị …(Nước mắm nguyên chất、水、砂糖、調味系の食品添加物……)とあれば、Nước mắm nguyên chất を基礎に水や砂糖などで仕上げた製品だと読めます。製造時に加えられ完成品に残る水も、原材料として表示対象です。
Thành phần でよく見る言葉
| ラベルで見る言葉 | 日本語では? | 漢越語・読み方の手がかり |
|---|---|---|
| cá cá cơm / cá nục など | 魚 カタクチイワシ類、ムロアジ類など | cá は日常語。「cá+魚名」で原料魚が分かる |
| muối | 塩 | 日常語 |
| nước | 水 | 日常語。nước mắm の nước と同じ語 |
| đường | 砂糖 | đường【糖】は漢越語 |
| nước mắm nguyên chất | 魚と塩を自然発酵させて得る、TCVN上の製品区分 | 別の Nước mắm の原材料として書かれることもある |
| phụ gia thực phẩm | 食品添加物 | phụ gia【附加】+ thực phẩm【食品】 |
| chất điều vị | 調味系の食品添加物(flavour enhancer) | chất【質】+ điều vị【調味】 |
| chất bảo quản | 保存料 | bảo quản【保管】。ラベルでは「保存」に近い意味 |
| hương liệu | 香料 | hương liệu【香料】。日本語とそのまま対応 |
| chất tạo ngọt | 甘味料 | chất【質】+ tạo【造】+ ngọt(甘い) |
| chất tạo màu | 着色料 | chất【質】+ tạo【造】+ màu(色)=「色を作るもの」 |
食品添加物は、現行のラベル規則で用途を示す区分名と、添加物名または国際番号 INSを表示するため、chất điều vị や chất bảo quản のあとに具体的な名称や数字が続いていることがあります。
ここで一つ注意したいのは、原材料が少ないほど「格上」とは限らないということです。魚と塩だけの Nước mắm nguyên chất を探している人にとって Cá ~ と muối だけかどうかは重要な情報ですが、水や砂糖で味を調整した Nước mắm には別の使いやすさがあります。食品添加物についても「入っている=危険」「入っていない=安全」と原材料欄だけから判断することはできません。製品の作り方の違いと、食品としての安全性は分けて考える必要があります。Thành phần は商品を点数化する欄ではなく、自分が「魚と塩中心のもの」を探しているのか、味を調整して仕上げたものも含めて選ぶのかを確認するための情報です。
なお、原材料欄に cá cơm(カー・コム:カタクチイワシ類中心の小魚)、cá nục(カー・ヌック:ムロアジ類など)、cá cơm than(カー・コム・タン:カタクチイワシ科の一種)など魚種まで書かれていることもあります。魚種が分かれば産地ごとの製造体系ともつながりますが、cá cơm だから自動的に Phú Quốcというような対応関係はなく、原料魚と産地は別々に確認する必要があります。
2026年現在、ラベルの基本ルールは Nghị định 37/2026/NĐ-CP
2026年1月23日に施行され、旧規則 Nghị định 43/2017/NĐ-CP とその改正 Nghị định 111/2021/NĐ-CP は失効しました。経過措置があるため、売り場には旧規則に沿ったラベルの商品が残っている場合がありますが、原材料を重量の多い順に表示することや、食品添加物の区分名・名称・INS番号などを表示する基本的な読み方は、新規則でも引き継がれています。
製品名と Thành phần を見ると、その一本が何をもとに、何を加えて作られているのかまで見えてきます。次はボトルの数字 — 30°N、35°N、40°N の độ đạmを見ていきます。
主な出典・参考:
Nghị định 37/2026/NĐ-CP 第48条(原材料の重量順表示、食品添加物の区分名・名称・INS番号等)
TCVN 5107:2018「Nước mắm」(原材料・食品添加物の扱い)
③ 30°N、40°N — độ đạm は、どう比べればいい?

ヌックマムのボトルには 30°N、35°N、40°N、あるいは 30 độ đạm、40 độ đạm といった表示を見かけます。độ【度】は日本語の「温度」「濃度」と同じ字の漢越語、đạm【氮】は窒素成分と関係する語で、日常の栄養の話では chất đạm(=たんぱく質)として使われます。ただしヌックマムの độ đạm が直接測っているのはたんぱく質そのものではなく、液体に含まれる総窒素量です。TCVN 5107:2018 が正式に使う単位は g/L で、ベトナム語では Hàm lượng nitơ tổng số(hàm lượng【含量】+nitơ+tổng số【総数】=「窒素の総含量」)と書きます。「40°N」は「Hàm lượng nitơ tổng số: 40 g/L」に対応します。
ラベルには Hàm lượng nitơ axit amin(アミノ酸態窒素、総窒素に対する割合%で表示)が併記される場合もあります。これはアミノ酸そのものの量ではなく、アミノ基に由来する窒素を窒素量として評価した数字です。総窒素が同じ40g/Lでも、窒素成分の内訳までは同じとは限りません。
Độ đạm は、こう使う
同じメーカー・同じタイプの商品を比べる
→ 比べる意味がある。30°Nと40°Nなら、総窒素濃度は40°Nの方が高い。
違うタイプ・違うメーカーの商品を比べる
→ 数字だけで優劣を比べる意味はかなり小さい。40°Nだから30°Nより「格上」とは判断できない。
こう言えるのは、độ đạm が示すのはあくまで1Lあたりの総窒素濃度だからです。
同じメーカー・同シリーズで原材料や製法もほぼ同じなら、40°Nの方が魚由来の含窒素成分がより濃い製品だと比較できます。しかし、メーカーやタイプが違えば、Nước mắm nguyên chất か Nước mắm か、原料魚は何か、熟成・抽出の方法、cốt と long(cốt 後にさらに得る後続抽出液)の pha đấu(配合・ブレンド)、濃縮の有無、アミノ酸態窒素の比率、香り・塩味・後味の設計まで条件が異なるため、A社の40°NとB社の30°Nを並べて「数字が大きい方が高品質」と結論づけることはできません。条件の近い商品同士を比べるときほど、độ đạm の差は意味を持つと考えてください。
では何°Nを目安にすればいいのか — ここは一本の線を引かない方が正確です。
現行の国家標準 TCVN 5107:2018はヌックマムの総窒素量を10g/L以上としています。Phú Quốcの2023年地域技術規則ではThượng hạng(上級)は30g/L以上、Đặc biệt(特別級)は35g/L以上としていますが、これはPhú Quốc限定の区分で、全国のヌックマムにそのまま当てはめられるものではありません。旧TCVN 5107:2003にあった「30g/L以上 = Đặc biệt(特別級)」という全国共通の4等級制も、現在のTCVN 5107:2018では採用されていないため、今の商品を見て「30°N以上なら国家標準の特別級」と読むのは正確ではありません。何°Nなら合格・おいしいという境界線を作るより、条件の近い商品同士を比べる「濃さの指標」として使う方が実用的です。
また、độ đạm が高い=熟成期間が長いとは限りません。完成したヌックマムを真空濃縮や膜技術などで水分を減らせば、1Lあたりの総窒素量をさらに高くすることもできます。50°N、60°N、70°Nと書かれていても、数字だけから「特別に長期熟成した」「魚を特別に多く使った」とは逆算できませんし、反対に「高すぎるから偽物」と決めるのも正確ではありません。高い数字を見たときほど、製品名・Thành phần・製造方法の説明まで一緒に確認しましょう。
Độ đạm から、買うときに分かること
分かる — 1Lあたりの総窒素濃度。似たタイプの商品なら、魚由来の含窒素成分の濃さを比較する重要な手がかりになる。
数字だけでは分からない — 熟成期間、アミノ酸そのものの量、香り、味、製法、産地、そして自分にとっておいしいかどうか。
製品名、原材料、độ đạm まで見れば一本の輪郭はかなり見えてきます。次は何の魚を使い、どこで作られたのかを見ていきます。
主な出典・参考:
TCVN 5107:2018「Nước mắm」(総窒素10g/L以上、アミノ酸態窒素、表示事項)
TCVN 5107:2003「Nước mắm」(旧4等級制。現行の全国共通基準ではない)
Kiên Giang省「Quyết định 21/2023/QĐ-UBND / QCĐP 01:2023/KG」(Phú Quốc地域技術規則、品質区分)
真空濃縮による高総窒素魚醤の研究
Từ điển Hán Nôm「đạm」(đạm=氮)
④ 原料魚・産地・GI — 「何の魚」「どこで作った」を分けて読む
ボトルに大きく Phú Quốc と書いてあることと、原材料が cá cơm であること、その商品が Phú Quốc のGI(地理的表示)品であることは、それぞれ別の情報です。ここでは①原料魚(何の魚か)、②原産地・製造地(どこで作られたか)、③GI・認証標章(地名が制度上の名称として使われているか)の3つを分けて見ます。
原料魚は Thành phần で見る
魚の種類は、先ほどの thành phần【成分】で確認します。cá cơm(カタクチイワシ類)、cá nục(ムロアジ類など)、cá cơm than(カタクチイワシ科の Cá cơm 類)などと書かれていれば、その一本を原料魚の特徴や産地別の製法とつなげて見ることができます。ただし cá cơm は複数地域で使われる魚種なので、「cá cơm = Phú Quốc」のような自動対応はありません。原料魚と産地は別々に確認します。
Xuất xứ と Địa chỉ を混同しない
商品がどこで作られたかは xuất xứ【出處】(原産地)で見ます。2026年現在の規則では、原産地は sản xuất tại ~(〜で生産)、nước sản xuất: ~(生産国)、xuất xứ: ~、sản phẩm của ~、Made in/Produced in/Product of ~などの形で表示されます。ただしこれは基本的に国・地域としての原産地を示す情報です。「xuất xứ: Việt Nam」だけでは、Phú Quốc・Phan Thiết・Cát Hải・Nam Ô などのどこで作られたかまでは分かりません。
もう一つ紛らわしいのが địa chỉ【地址】(住所)です。ここに Phú Quốc や Phan Thiết の住所があると、その土地のヌックマムだと思いたくなりますが、Địa chỉ が示すのは製造者・販売者・輸入者など事業者の所在地であり、会社の住所と商品の原産地・製造地は同じとは限りません。また、原産地を確定できない場合などには、最終工程の場所を đóng chai tại ~(瓶詰め)、phối trộn tại ~(配合・混合)、đóng gói tại ~(包装)、dán nhãn tại ~(ラベル貼付)のように表示することもあります。「đóng chai tại ~」から分かるのは「そこで瓶詰めした」ことだけで、魚を仕込み熟成させた場所まで同じとは限りません。
地名が書いてあっても、意味は同じではない
Xuất xứ: Việt Nam→ベトナム原産という情報。Địa chỉ: Phú Quốc …→事業者の住所。これだけではGI品と分からない。Đóng chai tại …→瓶詰めした場所。熟成・製造全体の産地とは限らない。
「Phú Quốc」の大文字より、GIロゴを見る
特定の産地で作られた一本を選びたいなら、Chỉ dẫn địa lý(GI/地理的表示)を確認します。chỉ dẫn【指引】、địa lý【地理】はいずれも漢越語です。GIは単に地名を大きく印刷することとは違い、地域と結びついた原料・製造・品質の条件を満たした製品にのみ使用が認められる制度上の名称です。地名の大きさではなく、GIや認証標章まで見る方が実際の産地性を判断できます。
Phú Quốc はこの読み方が分かりやすい例です。2023年の地域技術規則では、Phú QuốcのGI品として小売するボトルに、製品名「Nước mắm PHÚ QUỐC」、Chỉ dẫn địa lý のロゴ、Thành phần: Cá cơm và muối、総窒素量、アミノ酸態窒素の表示が定められています。つまり「PHÚ QUỐC」の文字だけでなく、GIロゴ・原材料・窒素表示まで一緒に確認すると判断しやすくなります。なお同じ規則には Nước mắm truyền thống Phú Quốc(Phú Quốc の伝統的ヌックマム)という別区分もあり、「Phú Quốc」の地名を含みますがGI品とは原料・添加物の条件が異なります。「Phú Quốc と書いてある」=「Phú Quốc GI品」ではありません。
| 産地 | 制度 | 買うときに見るポイント |
|---|---|---|
| Phú Quốc | GI(Chỉ dẫn địa lý) | 「Nước mắm PHÚ QUỐC」という製品名、GIロゴ、cá cơm と塩の原材料表示、総窒素量・アミノ酸態窒素量を確認する |
| Phan Thiết | GI(Chỉ dẫn địa lý) | 使用を認められた製品にGIのtem(標章・シール)やロゴがある。「PHAN THIẾT」の文字だけでなくGI表示まで確認 |
| Cát Hải | 認証標章(Nhãn hiệu chứng nhận) | 「sản xuất tại Cát Hải」という認証標章がある。単なる文章表記か認証標章としての使用かを見分ける |
| Nam Ô | GI(2024年登録) | 単なる地名表示だけでなく、GIとしての表示・製造者情報まで確認する |
ここでもGIは「ほかよりおいしい」という意味ではなく、その地域の原料・製法・特徴と結びついた商品を選びたいときに役立つ情報です。
結論 — 地名ではなく「根拠」まで見る
何の魚か知りたい
→ Thành phần(原材料)で Cá cơm(カタクチイワシ類)、Cá nục(ムロアジ類など)を見る。
どこの国・地域の商品か知りたい
→ Xuất xứ(原産地)、Sản xuất tại(~で生産)を見る。
有名産地の製法・地域性を重視したい
→ GI(地理的表示)ロゴ・tem(標章・シール)・認証標章まで見る。
Địa chỉ(住所)や Đóng chai tại(~で瓶詰め)しか分からない
→ 会社住所・瓶詰め場所までしか分からない可能性がある。産地を推測しない。
産地そのものを特に重視しないなら、GIの有無だけで商品を選ぶ必要もありません。製品名、Thành phần、độ đạm、用途や好みの方が重要になることもあります。ここまでで、ラベルから読める主要な情報はそろいました。最後にボトルを手に持って最初に目へ入る色を見ていきます。
主な出典・参考:
Nghị định 37/2026/NĐ-CP 第47条(原産地表示、最終工程表示)
Kiên Giang省「QCĐP 01:2023/KG」(Phú Quốc GI品の表示要件)
Quyết định 67/2024/QĐ-UBND(GI「PHAN THIẾT」のtem・ロゴ管理)
Hải Phòng市科学技術局「sản xuất tại Cát Hải」認証標章
ベトナム知的財産庁「Bảo hộ chỉ dẫn địa lý “Nam Ô”」(2024年GI登録)
⑤ 色は見る。でも、色だけでは選ばない
淡い黄金色、赤みを帯びた琥珀色、濃い茶褐色 — 色はヌックマムを手に取って最初に目へ入る情報です。以前、ベトナム人のコックに「色を見れば原料魚や品質まで分かるのか」と聞いたところ、色だけに頼るのは不十分という答えでした。商品によっては色を調整している場合もあり、見た目だけでは中身を決めつけられない、というのが理由です(これは一人の料理人の経験談であり、市販品全体の統計ではありません)。実際、規格やGI資料を見ても、色だけで原料魚・産地・品質を決めない方がよいことが分かります。
| 産地 | 公的資料に現れる色の表現 |
|---|---|
| Phú Quốc | màu nâu cánh gián の中程度〜濃い色 |
| Phan Thiết | màu vàng rơm(麦わら色)または vàng nâu(黄褐色) |
| Cát Hải | nước mắm cốt は麦わら色〜màu cánh gián |
| Nam Ô | màu nâu cánh gián |
màu(色)、vàng(黄色・金色)、nâu(茶色)、rơm(藁)から、màu vàng rơmは「麦わら色」と読めます。cánh giánは直訳すると「ゴキブリの翅」ですが、ベトナムの食品・飲料では透明感のある赤褐色〜濃い琥珀色を表す伝統的な色名として使われます。
こうして並べると産地ごとの色の傾向はあるものの、cánh gián 系の色は Phú Quốc と Nam Ô の両方に現れ、Cát Hải cốt の色域にも重なります。魚種だけでなく熟成・抽出・ブレンド・濃縮でも色は変わるため、色だけから産地や魚種を逆算することはできません。
買うときに見る意味があるのは「濃い方が上か」ではなく、その製品らしい色になっているか、透明で状態が良いかという点です。TCVN 5107:2018 は官能的な状態として、黄褐色〜濃褐色でその製品に特有の色であることに加え、透明で濁りがなく、目に見える異物がないことを求めています。
色を見るなら、ここを見る
見る意味がある — その製品らしい褐色系の色か。透明感があるか。異常な濁りや異物がないか。色だけでは判断できない — 原料魚、産地、熟成期間、độ đạm、品質の優劣、おいしさ。
色が自然か調整されたものか気になったら、結局は thành phần に戻ります。着色料は chất tạo màu(=色を作るもの)で、使われていれば区分名と名称・INS番号などが表示されます。一方、TCVN 5107:2018 の nước mắm nguyên chất では食品添加物を使用できません。色が気になるときも、瓶を光へ透かして推理するより、製品区分とthành phầnを確認する方が確実です。
同じタイプの商品で条件が近いなら、最後に色や透明感を比べる意味はありますが、メーカーもタイプも違う二本を並べて「濃い方が高品質」「黄金色の方が上」と色だけで順位をつけることはできません。色は捨てる判断材料ではなく、最後に添える一枚くらいの位置づけがちょうどよいでしょう。次は、試飲できる場面での香りと味を見ていきます。
主な出典・参考:
TCVN 5107:2018「Nước mắm」(色、透明度、香り、味、異物などの官能要件。食品添加物の扱い)
Kiên Giang省「QCĐP 01:2023/KG」、Quyết định 67/2024/QĐ-UBND、Hải Phòng市科学技術局「Quyết định 243/QĐ-SKHCN(2023)」、Cục Sở hữu trí tuệ「Bảo hộ chỉ dẫn địa lý “Nam Ô”」(各産地の色・透明度)
⑥ 香り・味 — 試せるなら、最後は自分の舌で決める
ここまでラベルから読める情報を見てきましたが、もし試飲できるなら、規格の数字では決まらない、いちばん直接的な情報が残っています。自分が、その香りと味を好きかどうかです。同じような độ đạm、同じような原材料でも、香りの立ち方、塩味の感じ方、魚由来のうま味、後味はかなり違い、この違いに「正解」はありません。
| ベトナム語 | 日本語では? | 読み方の手がかり |
|---|---|---|
| mùi | におい・香り | 日常語。よい香りにも好ましくないにおいにも使う |
| mùi thơm | よい香り・芳香 | thơm=香りがよい |
| vị | 味 | vị【味】漢越語 |
| hương vị | 風味・味わい | hương【香】+vị【味】 |
| hậu vị | 後味・余韻 | hậu【後】+vị【味】 |
| mặn | 塩辛い | 日常語 |
| ngọt | 甘い | ヌックマムではngọt của đạmのように、魚由来のうま味を含む「甘み」にも使う |
特に覚えておくと便利なのが hậu vị(後味)です。Phú Quốc、Phan Thiết、Nam Ô などの公的資料でも、できあがったヌックマムの味を説明するときに繰り返し登場します。
ヌックマムの香りはかなり個性があり、魚の発酵香がはっきり立つものもあれば穏やかなものもあります。公的資料でも Phan Thiết は強く特徴的な香り、Nam Ô は穏やかな特徴的な香りと表現されており、香りが強い=上質、弱い=劣るという関係ではありません。試せるなら、①香りの強さが自分に合うか、②発酵香を心地よく感じるか、③酸っぱいにおいや腐敗臭など不自然な異臭がないか、を見れば十分です。規格が重視するのも「香りの強さ」ではなく、その製品に特徴的な香りがあり異臭がないことです。
味は最初に塩味を感じますが、そこで終わるか、そのあとに魚由来のうま味や余韻が残るかで印象がかなり変わります。規格やGI資料でよく出てくる ngọt của đạm/ngọt đậm của đạm は、砂糖の甘さではなく魚のたんぱく質が分解されて生まれるうま味・まろやかな甘みを含んだ味を指します。さらにその味が消えたあとに残るのが hậu vị(後味・余韻)です。
味見できるなら、この3つを見る
① 塩味 — 強すぎないか、料理に使いやすそうか。
② 魚由来のうま味・甘み — 塩味の奥にどれだけ厚みを感じるか。
③ Hậu vị(後味) — 飲み込んだあとにどんな余韻が残るか。
ここは割り切って考えて構いません。規格やGIは色・透明度・香り・味・後味について製品として満たすべき特徴を定めていますが、その基準を満たした製品がすべての人にとって同じようにおいしいわけではありません。香りが強い方を「これぞヌックマム」と感じる人もいれば、料理で使いやすい穏やかな方を好む人もいます。試飲できる場面では、数字で勝っている方を探すより、自分が使いたいと思える方を選ぶのが自然です。
まとめると、ラベルは「正体を知るため」、味見は「自分に合うかを知るため」と分けると分かりやすいです。条件が近い二本ならdộ đạmや産地表示まで見たうえで最後は好みの香り・味を選び、メーカーもタイプも違う二本ならなおさら、一つの数字より実際の味の好みを優先する意味が大きくなります。
主な出典・参考:
TCVN 5107:2018「Nước mắm」(色、透明度、香り、味、後味などの官能要件)
Kiên Giang省「QCĐP 01:2023/KG」(Phú Quốc の香り・味・hậu vị)
Quyết định 67/2024/QĐ-UBND(Phan Thiết GI の香り・ngọt đậm của đạm・後味)
Cục Sở hữu trí tuệ「Bảo hộ chỉ dẫn địa lý “Nam Ô”」(Nam Ô GI の香り・hậu vị)
何に使うかで、選ぶ一本も変わる
ラベルの読み方に加えて、そのヌックマムを何に使いたいかも選ぶときの基準になります。そのまま少量つけるのか、つけだれ(nước chấm)のベースにするのか、煮物や炒め物へ使うのかで気になるポイントは少し変わりますが、「料理ごとに別のヌックマムが必要」という話ではありません。一本で幅広く使ってまったく問題ありません。以下は、迷ったときに用途を判断材料の一つにするための整理です。
| 使いたい場面 | 選ぶとき特に見たいところ | 考え方 |
|---|---|---|
| そのまま少量つける | 香り、塩味、うま味、hậu vị | 味が直接出るので、試せるなら自分の好みが最重要 |
| つけだれ(nước chấm) | 塩味、うま味の強さ、香り、調整しやすさ | 水・砂糖・酸味・にんにく・唐辛子などと合わせるため、つけだれの中でどう働くかを見る |
| 煮物・煮込み | 塩味、うま味、香りの強さ、価格 | 加熱で香りが変わるため、単体の繊細な香りだけで選ぶ必要はない |
| 炒め物 | 塩味、香り、使いやすさ | 料理全体にどの程度存在感を出したいかで選ぶ |
| 下味 | 塩味、うま味、他の調味料との合わせやすさ | 最終的には他の味も重なるため、単体の後味を最優先にしなくてもよい |
| ヌックマムそのものを味わいたい | 製品名、thành phần、原料魚、産地、độ đạm、香り、hậu vị | 「便利さ」よりその一本の個性を見る |
ただし「炒め物なら30°N、つけるなら40°N」のように độ đạm で用途を固定的に決めることはしません。同じ40°Nでもメーカー・製品区分・原料魚・塩味・香り・ブレンドの仕方が違えば料理での印象は変わりますし、逆に30°Nだから加熱用、40°Nだから生食用という決まりもありません。độ đạm は用途を決める番号ではなく、あくまで総窒素濃度の指標です。用途を考えるときは数字だけでなく、香り・塩味・うま味・価格まで含めて見る方が実際的です。
用途ごとに何本もそろえる必要はありません。実際、私のベトナム人の妻も用途ごとに使い分けているわけではなく、一本買ったらつけだれ、炒め物、煮物、下味などさまざまな用途に使い、使い切ったら次の一本を買うという使い方をしています(これは一家庭の使い方の一例です)。毎日の料理で重要なのは細かな分類を守ることより、そのヌックマムの塩味や香りの強さを自分が把握していることです。同じ大さじ1でも商品が変われば塩味や香りは変わるので、一本をしばらく使って「これくらいでちょうどいい」と分かっていることの方が、用途別に何本も持つことより実用的な場合もあります。
もしヌックマムをよく使うようになってもう一本試したくなったら、同じような商品を増やすより役割の違う一本を選ぶと違いが分かりやすくなります。たとえば、①香りやhậu vịをしっかり味わえる一本、②産地や原料魚の違いを楽しむ一本、③ Nước mắm nguyên chất と味を調整した Nước mắm の違いを試す一本、という選び方です。こうすると「どちらが上か」ではなくどう違うのかが見えやすくなります。
まとめると、用途は最初から「炒め物用」「つけだれ用」と決め打ちするものではなく、製品名・thành phần・độ đạm・原料魚・産地からその商品が何なのかを見たうえで、最後に「この一本を何に使いたいか」で絞り込めば十分です。
よくある「選び方」の勘違い
| よくある間違い | 実際は? |
|---|---|
| 色が濃いほど高品質 | × 色だけでは原料魚・産地・品質は決まらない。透明度や異常な濁りを見る補助情報として使う。 |
| độ đạm が高いほど必ずおいしい | × 総窒素濃度の指標。同タイプの商品同士なら比較しやすいが、違うメーカー・違うタイプの優劣までは決められない。 |
| 魚と塩だけなら必ず上等 | × 原材料の違いは分かるが、おいしさの順位ではない。 |
| Phú Quốc と書いてあればGI品 | × 地名だけでなく、GIロゴや制度上の表示まで確認する。 |
| 食品添加物が入っていれば危険 | × 製品の作り方・設計と、食品としての安全性は分けて考える。 |
要するに、一つの数字、一つの地名、一つの見た目だけで決めないということです。
迷ったら、この順番で一本を選ぶ
ヌックマムを選ぶ順番
① 製品名を見る — Nước mắm nguyên chất/Nước mắm
↓
② Thành phần【成分】(原材料)を見る — 魚・塩だけか、水・砂糖・食品添加物なども使われているか
↓
③ Độ đạm・総窒素を見る — 同じタイプの商品なら濃さを比べる手がかりにする
↓
④ 原料魚・産地・GIなどを見る — cá cơm なのか、どこで作られ、どの制度と結びついた商品なのか
↓
⑤ 色・透明度を見る — 見た目だけで品質を決めず、補助情報として確認する
↓
⑥ 用途と好みで決める — 何に使いたいか。試せるなら香り・味が自分に合うか
この順番で見れば、ラベルの情報量が多くてもかなり整理して選べます。「一番いいヌックマム」を探すというより、自分が使いたい一本を選ぶ。それが結局いちばん実用的な選び方です。
まとめ — 「一番いい」より、自分が使いたい一本を選ぶ
ヌックマムのラベルには、思っている以上に多くの情報があります。製品名、thành phần、độ đạm、原料魚、産地表示 — それぞれの意味が分かれば、数字や宣伝文句だけに引っぱられず、自分で一本を選べるようになります。
目指すのは、誰にとっても一番とされる商品ではありません。ラベルからその一本の正体を知り、自分の好みや使い方に合うヌックマムを選ぶ。その視点があれば、初めて見る商品でも、数字や宣伝文句だけに振り回されずに判断できます。
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